勝負の時に可能性を求めるか、いつも通りを貫くか~1972年逆転本塁打王の長池徳二
大勝負がかかった時、ちょっとでも可能性を求めるか、いつも通りを貫くか、どちらを選ぶだろうか。
黒柴スポーツ新聞編集局長は勝負強い自覚がないから、チャンスがあるなら追うタイプ。努力の余地があるなら最後まで粘る。だがいつも通りを貫いて本塁打王になった人がいる。1972年の長池徳二だ。「プロ野球名勝負伝説」を興味深く読んだ。本にあった本塁打王争いをざっくり紹介する。
1971年、長池はわずか1本差で本塁打王を逃した。タイトルを取ったのは東映の大杉勝男だった。もちろん長池は最終戦で粘った。しかし6打席のチャンスをものにできなかった。二人の本塁打王争いは翌年も続いた。
1972年4月末
大杉4本
長池0本
長池はオープン戦で左足をねんざしたのが響いていた。
5月末
大杉19本
長池8本
大杉は5月だけで15本と、王貞治の月間ホームラン記録に並ぶ好調だった。
6月末
大杉25本
長池12本
長池はリーグ6位だった。
7月末
大杉27本
長池14本
大杉は前半戦で足踏みもしたがオールスターでも2戦連発と実力を誇示していた。
8月末
大杉31本
長池24本
この月、大杉の4本に対して長池が10本。大杉のいた東映4連戦で4本打った。2015年にトリプルスリーを達成した山田哲人と柳田悠岐が別リーグで切磋琢磨したのとは対照的に大杉と長池は同一リーグで火花を散らしていた。
9月28日
大杉38本
長池38本
ついに長池が追いついた。この月15本。王と大杉の記録に並んでしまった。15本目は大杉を抜く39号だった。
長池のいた阪急は9月26日に優勝。だが10月3日にシリーズ用の練習でチームメイトと衝突。右足指の裂傷で5試合欠場。この間に大杉は2本打ち40本でシーズンを終えた。
10月12日に長池は大飛球を放つが西鉄の東田正義がラッキーゾーンにグラブを差し出してナイスキャッチ。長池も諦めムードだったというが心の中はどうだったか。
最後の10月15日。ここでかっこよかったのが四番で出たこと。プロ野球ファンならこういう場合一番打者として出る方が有利と知っている。タイトルがかかっていたら許されもする。だが長池はいつもの打順で勝負した。
第1打席でホームラン。これで大杉と並んで本塁打王に当確。そして次かその次かは分からないがもう一発、41号を放って単独ホームラン王に輝いた。最大15本差をつけられながら最終戦で勝った。
勝ったから、長池のいつも通りの姿勢をカッコいいと言えるが、1年前に6打席粘ってもダメだったんだからもうジタバタするまいと思ったのではないか。開き直りが好結果を生むこともある。
さらに、四番としての格もある。例えば中村剛也とか筒香嘉智が逆転本塁打王を目指す時に一番打者として出場したらムムムとなるかもしれない。プロだからこそ最後の最後まで可能性を求めるという人もいる。粘ってもいいのだがそれをやると必死さが先立ってカッコ悪くなってしまう人もいるのでそこは気をつけねばならない。長池は四番として本塁打王争いに勝ったところがかっこよかった。
あなたならこの場合、どの打順で勝負するだろうか。
きょうの1枚は長池。本塁打王3回、打点王3回というのはいかにも強打者。通算1390安打は意外に少なく思ったが勝負強さがそう思わせるのだろう。高橋慶彦に破られるまで32試合連続安打は日本記録だった。この写真は野球帽のHがかっこいい。