黒柴スポーツ新聞

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大谷翔平の163キロと共に覚えておいてほしい東映の速球派・森安敏明

大谷翔平が6月5日の巨人戦で、プロ野球最速の163キロをマークした。ニュースにはなったがときめかなかった。なぜならその一球にはドラマチックな要素がなかったから。試合のすうせいが決まる、あるいはシーズンを占う一球であれば、どんな球速でも心に響く。そういうものではなかろうか。

また、速球投手というのは全体の印象であってほしい。もちろん大谷翔平はれっきとした速球派だが、藤浪晋太郎と同じく「速い球が投げられる」という方が実際に近い。

じゃあ速球投手は誰なんだとなろう。黒柴スポーツ新聞編集局長の心の師匠の一人、後藤正治先生の傑作「スカウト」には取材対象である木庭教の話が載っている。いわく、球に威力があった高校生としては浪商高の尾崎行雄(東映)、下関商高池永正明(西鉄)、作新学院高の江川卓(巨人)、関西高の森安敏明(東映)だという。

スカウト

スカウト

森安敏明はホップする球で、伸びがすごい。木庭は後ろで見ていて怖いと思ったという。高校時代の森安敏明は倉敷商高の松岡弘(ヤクルト)、岡山東商高の平松政次とで岡山三羽がらすとされていた。恐るべし岡山球界。すさまじくハイレベルである。


くしくも大谷翔平のいるファイターズは東映フライヤーズの流れをくむ。だが大谷翔平は森安敏明の名前さえ知らないかもしれない。それは森安敏明が巻き込まれた黒い霧事件の発生と無縁ではない。森安敏明は現役4年半で58勝。八百長を依頼され、押し付けられた50万を使ったとされる。処分は永久失格だった。


あらためて、石川泰司著「消えた男たち」を読んだ。著者は毎日新聞の記者で、一般人になった森安敏明に会いに行った。いわゆるあの人は今的なやつだ。だが黒柴スポーツ新聞編集局長も記者のはしくれ。石川氏のドキドキ感は半端なかったと見た。もっとも石川氏は森安敏明の現役時代を知っており、森安敏明がきちんと話のできる相手だったのだが。きっと石川氏の人柄が受け入れられたのだろう。際どい話も盛りだくさんなのだが、泊まっていけと言われることが象徴しているように石川氏の取材は「大成功」に終わっている。


事件が事件なだけに生々しい描写や、失格後に各地を渡り歩く境遇が書かれている割合が多い。黒柴スポーツ新聞編集局長ならあえて速球の原理なり、対戦したバッターの印象など現役中のことを中心に森安敏明に聞いてみたかった(残念ながら森安敏明は亡くなっている)。もちろん、白状すればあの人は今の「今」が知りたくてAmazonで本を買ったのだが。


なお、本では森安家の家族写真がエピローグに収録されている。いろいろしんどい日はあっただろうが、木漏れ日のような温もりが感じられる一枚だ。


稀代の速球投手がアクシデントで球界を去った。もし尾崎と池永と森安敏明と江川が同時代に投げ合っていたら…想像しただけでワクワクする。もちろん163キロは歴史的な一球なのだが、速球はイメージとして語る方が味わいを感じる。


池永は永久失格だった処分が解除されたが森安は亡くなってしまいもう名誉回復のチャンスはない。だが本人が八百長はやっていないという言い分は信じてあげたい。というか当時の球団代表が「森安敏明はやっちゃいない」と取材で振り返っているのだが。とばく常習者と同行したことが有害行為として追放されてしまったのだが、このまま森安敏明が歴史に埋もれてしまっていいのだろうか。若きファイターズのエースの史上最速球と同時に、フライヤーズの速球投手・森安敏明の名前もぜひ覚えておいてもらいたい。


きょうの一枚は平松政次。高校時代は森安敏明の方が上と著書「カミソリシュート」で書いている。通算201勝。最多勝2回、最優秀防御率1回、沢村賞1回。平松氏あたりが発起人になってぜひ森安にもう一度スポットライトを優しく当ててほしい。ベースボールマガジンにもぜひ大谷・尾崎、大谷・森安のコラボカードを作っていただきたい。

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