黒柴スポーツ新聞

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グラシアル幻の敬遠と大島幻のランニング本塁打~勝負を分けたあの1球

やるか、やらないか。チームにおいて意思統一は重要だ。与田剛監督は敬遠を指示したのか。ロドリゲスは勝負に行ったのか。大島洋平の幻のランニングホームランが取り沙汰されているが、6月6日のソフトバンク対中日戦は、1球で局面ががらりと変わる野球の醍醐味を見せつけた。今回はその8回裏のグラシアルの「幻の敬遠」をクローズアップする。

 

 

 

2死一、二塁から好打者グラシアルを迎えた中日には敬遠という選択肢があった。満塁にするリスクはあるが次打者は実績が乏しい若手の九鬼。もともとデスパイネの打順だったのだが、代走の九鬼と入れ替わっていたのだった。が、中日はグラシアルとの勝負を選択した。

 

しかしソフトバンクは何を狙ったのか、ダブルスチールを敢行した。ランナーは二、三塁。これなら中日はグラシアルを歩かせてもよい場面だったがまたもや中日は勝負を選んだ。ところがカウントが整わない。3ボール1ストライクとなったところでキャッチャー武山はベンチを見た。一瞬手を前方に振ったようだ。敬遠するか聞いているのだろう。中継画面では与田監督が一塁方向にあごをしゃくったように見えた。

 

敬遠だ、と思った次の瞬間、アウトコース低めの球がストライクとコールされた。思わず体を揺らした与田監督。抑えられるなら抑えさせようか。そんな迷いが垣間見えた。ピッチャーのロドリゲスは、外すつもりがあったのか。それとも、最初から際どいコースであわよくば三振を狙っていたのか。

 

キャッチャーも外すつもりはあったのか。際どいコースだったから本能的にストライクにするキャッチングをしたのではなかったか。とにかく外すなら外せという明確な指示が必要だった。今は申告敬遠という制度があるのだ。作戦としてきっちり出塁させればよかった。もちろん、中日ベンチが勝負を選択した可能性も十分にあるのだが。

ピッチャーとキャッチャーの思いが違っていなければいいのだが、と解説者が言い終わらないうちに、グラシアルの打球はセンター前に抜けていった。二人目のランナー今宮健太まで帰ってきた。際どいタイミングでアウトになったがリプレー検証で覆りソフトバンクは2点勝ち越した。

 

収まらないのは中日ベンチ。この前の大島洋平の際どい本塁突入はキャッチャー高谷のタッチを間一髪かいくぐっているようにも見えたが結局アウト。中日はリプレー検証を求めて覆らなかった経緯があった。それだけに波留コーチは激昂。かなりの口調で抗議していたようだ。中日にしてみれば踏んだり蹴ったりだっただろう。

 

なお中日の球団代表が高谷のプレーを空タッチと言っているが、高谷は返球を上手にミットと右手で挟みながら大島にタッチしており空振りはしていない。問題は大島の左手が先にホームベースに触れているかどうか。この辺りはかなり長い間検証したので、アウトというならアウトだろう。私はソフトバンクファンなのでもちろんうれしいが、中日ファンは納得できないに違いない。

 

なお、今宮の本塁突入がうまくいったのは「飛んだから」だ。鋭角にホームベースに飛び込んでいるからロスがない。大島は滑り込んでいるから手のひらが数センチ浮いている可能性がある。ま、左手の左下部分はベースに触れている気もするが……。

 

一歩、前に。前に出る勇気のつくり方

一歩、前に。前に出る勇気のつくり方

 

 

 

さらにいうと高谷は捕球はうまくやったがタッチにいったのは正解だったのか。まだまだコリジョンルール導入前の、タッチに行くプレーが身に染みているようだ。かいくぐられるリスクを減らすためにも、あそこはホームベースの角に飛び込んでしまえば、ランナーはそこを目掛けて突っ込んで来るため、ホームインを封じ込められると思うのだがいかがだろうか。

 

……と何だかんだでやはり二つの本塁突入にクローズアップしてしまったが、勝負のあやという意味ではグラシアルの勝ち越しタイムリーの場面も負けないくらい面白かった。この一打は交流戦前の沈没ムードから交流戦3連勝に引き上げる、価値ある一打だった。ペナントレースにも相当影響がある。それがたった1球、外す思惑が違った形になったことで生まれた一打だったとしたら……やっぱり野球は最高に面白い。


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