上原浩治涙の敬遠いまだ完結せず~雑草魂、反骨心の男ついに引退
反骨心、雑草魂。引退を表明した上原浩治が大切にしてきたものだ。今季1軍未昇格という事実を受け止めての決断は切れ味が鋭く、見事な引き際であった。元エースらしい姿だった。
上原と言えばやっぱり涙の敬遠だ。記憶が曖昧だったがその1999年の映像を見返してみると、チームメイトの松井秀喜がペタジーニとし烈なホームラン王争いをしていた中での直接対決だった。ヤクルトが松井秀喜を敬遠し、上原にも敬遠指令が出た。
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指揮官は長嶋茂雄だった。取れるものなら松井秀喜にホームラン王をという意図は分かる。そしてヤクルトが敬遠するならこちらもだ、となるのも分かる。だが長嶋茂雄は野手出身だ。もしピッチャー出身の監督だったら上原に敬遠を指示しただろうか。していないようにも思えた。
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今のような申告敬遠もない時代。上原は渾身の直球を投げてペタジーニを歩かせた。4球目は高めに抜けた。くるりとセンターを向いた上原は思わずマウンドを蹴った。苛立ちが伝わってくる。そして上原は涙を流しながらヤクルト打線と対峙し、9回まで零点に抑えた。
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抑えていたペタジーニを歩かせねばならなかった。松井秀喜のタイトルが懸かっている状況はもちろん分かるが、抑えられないと思われることに耐えられなかったのか。真っ向勝負ができないことそのものが消化しきれなかったのか。いずれにせよルーキーが指令に対してマウンドを蹴ったのだから、見方によっては指揮官への批判と取られ、大問題になってもおかしくはない。
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だが長嶋茂雄は気持ちを大切にするタイプだから、逆によかったのかもしれない。そしてこのくらいの反骨心があるなら巨人のエースにふさわしいと思ってくれたのかもしれない。少なくとも私は20勝したからではなく敬遠に涙の抗議をしたことで上原を好きになった。
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泣くほどにこだわれるものがあるのを羨ましくも思う。しかもそれが仕事の面でなのだから。たまたま今激しい局面が自分にないだけかもしれないが、すべてを懸けて取り組めることがあるのは幸せなことだ。どんな仕事をしているかは関係ない。淡々とこなすのではなく、流儀にこだわったり、姿勢を大事にしながら仕事をすることは本当に大事だと思う。
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ああ、上原浩治とはそういうやつなんだ。あの日スタンドにいた巨人ファンはそれが分かったから、必死で上原を応援した。上原の敬遠には続きがあった。最初の敬遠時は5-0と巨人がリードしていたのだが、9回1死一、二塁で再びペタジーニを迎えたのだった。さぁリベンジだと、アナウンサーは上原の心情を代弁した。
週刊ベース・ボール 1999年11月29日号 エース登場 INTERVIEW 上原浩治
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仮に一塁が空いていたら再度敬遠しただろうか。あのマウンド蹴り上げを見た長嶋茂雄だったら、勝負させていたようにも思う。やってみろ、そして抑えてみろ、と。上原はしびれる場面で勝負できることを喜んだに違いない。結果的にタイムリーを浴びて1点を失ったのだが、反撃は計2点で食い止めて完投。20勝目を挙げた。
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最近のピッチャーでこのくらい勝負にこだわる人はいるだろうか。継投が前提となり、マウンドを譲ることにはもはや違和感もないかもしれない。継投が作戦であることを理解しつつも、降板拒否をたまには見てみたいな、なんて思う。ここはおれの仕事場だ。おれの流儀を貫かさせてくれ、そんな意地をたまには見てみたいな、と。
もちろん結果を伴わなければただのわがまま。こだわるからには責任も生じる。上原はきっちり完投したからカッコよかった。上原はペタジーニを敬遠しなければならなかったが、ファンとの一体感は得られた。その意味は大きかった。
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指導者としての道は強く意識していなさそうに見えるが、私は高橋由伸が好きだから、いつかヨシノブ監督と上原ピッチングコーチという組み合わせを見てみたい。松井秀喜監督でもいい。その時もし巨人の4番がホームラン王争いをしていたら、上原は敬遠を指示するだろうか。サクッと敬遠させて日本中からツッコミを受けそうな気もする。いや、もちろん真っ向勝負を指示してもらいたい。真っ向勝負する選手を育ててもらいたい。あの涙の敬遠には、まだまだ素敵な続きがあると想像している。