プロ野球平成最高の試合は?~「10.8 巨人VS中日 史上最高の決戦」を読んで
平成最後に買ったノンフィクション、鷲田康著「10.8 巨人VS中日 史上最高の決戦」を堪能した。史上最高の試合は野球ファンそれぞれにあろうが、この10.8は確かに特筆すべき試合であることは間違いない。個人的には平成最高のゲームだと思っている。
あまりにも有名な勝負だから、出てくるエピソードは知っていることばかりではないかと思って読んでいたが、とんでもない。あの時ナゴヤ球場で、そして巨人と中日内部でこのようなドラマがあったのかと驚きの連続だった。
それもひとえに元新聞記者の著者、鷲田康氏の丹念な取材のなせるわざだと思う。新聞記者の仕事の一つは、いつ、どこで、誰が、何を、どのように、そしてなぜ行ったかを記録することだ。事実の整理だけでも実はかなり骨が折れるのだが、この歴史的決戦を丁寧に再構築している点だけでもこの本にはものすごい価値がある。
そして特に、どのように、なぜの部分をいかに詳しく分析するか、またいかに読ませるかが記者の腕の見せ所でもあるのだが、さすがスポーツ紙の野球記者20年、フリーとしても10年野球を見続けたとあって、鷲田康氏のこの作品は一本の長編映画を見せてもらっている気分になれた。
私はまさに熟成した酒をチビりチビりとなめるかのように、この作品を何日にも分けて堪能した。ちょうど構成は試合展開に沿った形になっており、分けて読むのに都合がよかったこともある。こんな感じだ。
1回 長嶋茂雄の伝説
2回 落合博満の覚悟
3回 今中慎二の動揺
4回 高木守道の決断
5回 松井秀喜の原点
6回 斎藤雅樹の意地
7回 桑田真澄の落涙
8回 立浪和義の悔恨
9回 長嶋茂雄の約束
もうこれでビビビときた人は「買い」である。
個人的には桑田の章が心に残った。まさか桑田があんな心境だったとは……近いうちにこの章だけでもまたブログに書きたいと思っている。
そして高木守道については発見の連続だった。長嶋茂雄が惜しみなくエース三本柱(槙原寛己、斎藤雅樹、桑田真澄)をつぎ込んだのに対し、消極的とも取れた高木守道の継投策は個人的にも最大の謎だったのだが、今回作品を読みある程度消化することができた。先ほど「なぜ」をいかに解きほぐすかが腕の見せ所と書いたが、継投の裏側を知れたのは最大の収穫だった。ほんの一瞬、高木守道寄りになったがやはり勝負どころですべてを出しきろうとした長嶋采配を評価することには変わらなかった。
時代は令和になり、相変わらずプロ野球は楽しまれている。まだ特別、平成のプロ野球が何らかの定義をされたようにも見えないがいずれ何がしかの評価はされることだろう。その時にもこの「10.8 巨人VS中日 史上最高の決戦」は役に立つに違いない。新作でもないので本当に本当に遅まきながらのおすすめで大変恐縮なのだが、平成のプロ野球にはこんなすごい1日があったんだなと噛み締めながらぜひ楽しんでいただきたい。
- 作者: 鷲田康
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/03/11
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