黒柴スポーツ新聞

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修羅場をくぐり抜けないと成長しない~DeNA上茶谷が巨人の猛攻を受けて見えた景色とは

マウンドにはDeNAのルーキー、上茶谷大河が立っていた。「ここを乗りきらなかったらプロの勝利ってないんでね」。解説の江川卓は厳しいことを言うなあ、と思いつつ、その通りだよなと思った。上茶谷はピンチを抜け出せずにいた。

 

この5回、上茶谷はノーアウト満塁のピンチを背負い込んだ。得点はDeNAが1-0とリード。この日までに10連敗になっていたから余計に勝ちたいところだ。ただでさえプレッシャーがかかる局面なのに、ルーキーの肩には負荷がさらにかかっていた。

 

そこへ敵将の原辰徳監督は代打の阿部慎之助を送り込んだ。まさにドS。プロ未勝利のルーキーに、あと1本で球団史上3人目(生え抜き)の通算400本塁打の強打者をぶつけてきた。このあたりの情け容赦のなさが原辰徳の持ち味でもある。

 

原点―勝ち続ける組織作り

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これは上茶谷には荷が重いぞと見ていたが、上茶谷は踏ん張り阿部慎之助から三振を奪った。落ちる球に阿部は思わずバットが出てしまい、止めることができなかった。上茶谷がホッとしたのも束の間、原監督はさらに代打で大城卓三を投入した。誰を起用するかというより代打を続けることそのものに意味がある戦術に思えた。いわゆる圧をかけるというやつだ。上茶谷は投球が指に引っ掛かったのか、大城に死球を与えてしまった。押し出しで同点だ。

 

次のバッターは先発の山口だったがなおも満塁だったのでさらに代打が告げられ石川慎吾が打席に立った。石川は内野ゴロに倒れるも併殺崩れの間にランナーが帰り巨人が2-1と逆転した。巨人は押せ押せ。バッターは坂本勇人だ。冒頭の江川卓のコメントが出たのはこの時だった。

 

報知新聞社 坂本勇人 (読売ジャイアンツ) 2019年 カレンダー B2 プロ野球
 

 

 

江川卓は「2点で抑えておけばまだ分からない」とも言った。だが上茶谷は坂本に打たれた。しかも打球は上茶谷の足に直撃した。3-1になった。容赦ない巨人の攻撃だ。だがこういう修羅場をくぐり抜けないと、江川が言うようにプロではやっていけないのだろう。

 

そう、誰しも修羅場をくぐり抜けないと一人前にはなれないのだ。あっさり結果を残す人もいる。しかし本当の意味で一皮むけるのは際どい局面を乗り切った先だ。どんなに輝いていてもメッキはいつかは剥がれる。

 

それよりも、多少時間がかかっても苦杯をなめても、地力を付けた方がいい。長い目で見るならそれが実は近道だったりする。上茶谷はスイスイと投げて初勝利を記録できるくらいの力はある。しかし今回は巨人の猛攻を堪え忍んだことに意味があったように思う。上茶谷はなおも好打者の丸佳浩を迎えたがなんとかセンターフライに打ち取った。

 

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これだけでも上茶谷はいい経験をしたなと思ったのだが、何とDeNAは同点に追いつき、さらにはこの日1軍に昇格したばかりのベテラン石川雄洋が決勝2ランを放ち連敗を止めたのだった。頼れる先輩たちがいて、上茶谷は幸せものである。

 

誰だって猛攻を受けている時はしんどい。しかしどんな形でもやり過ごすことができたならば、一回り成長できる。その時は今までとは違う景色が見えるはずだ。修羅場を経験しないのは一見楽チンだが、そういう人はメリーゴーラウンドに優雅に乗って、同じところをぐるぐる回っているだけだ。

 

横浜DeNAベイスターズGame Diary 2019

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点差もあったがラミレス監督も上茶谷に期待しているからこそあの回はマウンドに立たせ続けたのだと思う。上茶谷に勝ち星は付かなかったが本当によい経験ができたに違いない。DeNAにとっては連敗を止めたことも大きな意味があるが、一人の若者を成長させる1勝だった。


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