黒柴スポーツ新聞

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譲れない一線は守る~判定に異議を唱えた楽天キャッチャー足立

楽天ソフトバンクの試合で、久々に抗議の場面を見た。リクエスト制度が出てから審判への直接的な抗議が減った。審判はリスペクトすべき存在ではあるけれど、納得できない時は声を上げてよいと思う。きょう声を上げたのは楽天のキャッチャー足立祐一だった。

美馬と足立のバッテリーは8回、ランナーを二塁に背負った。0-0の展開だっただけに何としても抑えたいところ。ツーアウトとなり、バッター牧原も追い込んだ。そして低めにズバッと直球が決まったかに見えた。ソフトバンクファンの私も「うわっ」と思わず天を仰いだが判定はボール。ここで足立がエキサイトした。

 

何か球審に言ったようだ。もしくは思わず声が出たか。球審が足立の前に腕を出して制していた。足立の表情はマスク越しに、紅潮しているように見えた。納得がいっていない様子だった。

収まりきらない足立の態度を見て、楽天の平石監督や光山コーチらがベンチを飛び出した。そして足立と球審の間に割って入った。光山コーチが足立をなだめていた。気持ちを切り替えろ、と言ったのかもしれない。

 

美馬と足立は再開後のボールに落差のある球を選択。牧原は空振り三振した。足立はミットを突き出して喜びを表した。私はソフトバンクファンだから本来残念がるべきなのだが、何だかすっきりしていた。そしてほとんど知らなかった足立というキャッチャーに好感を持った。

 

アラフォーともなるといろんなことが分かり、先が見えすぎて、少々のことは流しがちだ。異議を唱えても覆る可能性が小さければ、無駄なエネルギーは消耗したくないからと丸く収めてしまう。ごちゃごちゃ言うやつだと思われたくない。めんどくさい……どんどんこだわりが減っている自覚がある。

 

だからこそハッとさせられた。足立はまだまだ実績が少なく、球審に抗議を言うのも気持ち的に憚られる若手だ。勝負どころだったから声が思わず出たのかもしれないが、ストライクだと自信があったのだろう。だったら声を上げて正解だ。

 

何より美馬はうれしかったに違いない。渾身のストレートが最高のコースに決まった。判定はボールになったが相方は分かってくれた。相方はオレと同じ気持ちなんだ。だからあんなに熱くなってくれているんだ。次は絶対ストライクをとってやる。そんな前向きな気持ちになったのではないか。

楽天首脳陣がベンチを飛び出したタイミングもよかった。あれ以上エキサイトしたら足立が退場になってしまう。足立の気持ちは聞いてやる。しかしまずはこのピンチをしのぐことがおまえの役割だぞと諭したのだろう。そして足立は見事に期待に応えた。

 

あの後足立は光山コーチと話をしただろうか。美馬と話をしただろうか。ちょっと気になる。

 

足立が生まれる遥か前、一時代を築いた阪神村山実がストライク、ボールの判定に猛抗議をした有名な事件があった。剣幕に押されたか、球審は退場を命じた。だが納得いかない村山は泣いて抗議した。納得いかなかったのはストライク、ボールの判定か、退場宣告か、審判の態度だったのか、全部か。ともかく村山は球審に「どこがボールや。ワシは命がけで投げているんや。あんたも命がけで判定してくれ」と詰め寄ったという(週刊ベースボールONLINE  プロ野球デキゴトロジー/8月11日  阪神村山実、涙の抗議【1963年8月11日】より)。

 

村山実「影の反乱」

村山実「影の反乱」

 

 

何かとドライになってきた世の中、そして私。納得できないことをすべてのみ込まない、そこまではしないけれどこれは譲れない!という時は勇気をもって声を上げたいものだ。確かに傷つく恐れはある。あとは自分の気持ちとのバランスだ。自尊心を傷つけられるくらいつらいことはない。つまらないプライド、ではない。誇りだ。自負だ。譲れない一線は密かに守りたい。そのためにも上げるべき時は勇気をもって声を上げていこうと思う。


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