黒柴スポーツ新聞

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挑戦を是としない空気への違和感~菊池涼介メジャー挑戦の意向表明

広島の菊池涼介が将来的なメジャーリーグ挑戦の意向を表明した。おっ!と思ったがそれ以上にガッカリした。ニュースに対するコメントには「無理」「通用しない」という言葉が並んでいたからだ。



実は自分も菊池涼介が通用するかは疑問視している。菊池の守備は素晴らしい。もっとも、好きなのは菊池ほどの派手さがない源田壮亮の方なのだが。それでも、菊池涼介の守備にはエンターテインメント性を感じている。華がある。数少ない、守備でお金を取れる選手である。
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それでもなお、菊池涼介はメジャーでは厳しいと言われる。確かに体格差もある。そしてパワーも。日本人野手は、投手ほどは結果を残してこられなかった。結果を残したイチローも、松井秀喜も、外野手だ。内野手松井稼頭央井口資仁の名前は浮かぶ。だが何人もの日本人内野手がメジャーの壁にぶち当たった。

そう、プロ野球ファンが菊池涼介のメジャー挑戦に否定的なのは、なまじ過去の日本人メジャーリーガーがことを知っているから。別に菊池涼介のことが嫌いなわけじゃないのだ。



また、守備が一級品でも、打撃力への物足りなさが指摘されている。そこもある。やはり打てなければ使ってもらえないだろう。川崎宗則の姿が浮かんでくる。守備のイメージが強いオジー・スミスとて通算安打数は2460本。やはりメジャーでは攻守とも一流でないと試合に出してもらえないだろう。

ということを踏まえた上で、である。菊池涼介もトップレベルを目指すゆえのメジャー挑戦なのだから、「難しいかもしれないけれど、応援する」と、もっと言ってあげられないものか。カープファンは戦力ダウンを避けられないからそう簡単には認められないかもしれない(逆に、応援する人もたくさんいそうだが)。

では、他球団のファンはどうだろう。単純に、菊池涼介が通用しそうかどうかで判断してはいないか。それに限らず、何か、新しいことに挑戦することを是としない雰囲気を感じることがよくあるのだ。

今でこそ否定する声は少なくなったが大谷翔平の二刀流も賛否が分かれた。まあ、大谷翔平の場合は投打のどちらも一流だから、どちらかに絞っては?という趣旨は分からなくもない。だが何割かは、投打の両立は難しいからやめとけ、だの、前例がない、といった保守的な思考だったと思う。

先日NHKスペシャル小選挙区制導入の舞台裏を取り上げた中で、当時のキーパーソンの一人の小沢一郎も言っていた。誰しも現状を変えるのは嫌だ。特に日本人はそうだ、と。なぜなのか?

仮説を一つ立ててみた。日本は災害が多いからではないかと。いつ何時アクシデントがあるか分からないから何でも手堅くいきたい。リスクは少なければ少ないほどいい。新しいことにチャレンジなんかしなくてもいいんだ、と。

そして農耕民族であること。きっちり栽培しておけば一定量は収穫できる。それを溜め込むことで安定を感じられる。日本の野球もそうだ。1回から送りバントでチャンスを拡大させ、手堅く先制点を取りにいく。アグレッシブさより堅実性を重視するのだ。

また、農作業はみんなでやるものだから、スタンドプレーは嫌われる。目立つ行為は不要なのだ。コツコツやることこそが美徳。それも一つの価値観ではあるが、上のレベルを目指すための行動をセーブさせるのも考えものだ。やる前から諦めるのは、何だか寂しくないか。

別に菊池涼介のファンでもないのだが、もし本当にメジャーに挑戦するならば、その時は応援したい。華があるから、ハマれば人気者になるかもしれない。どうせならもっとひげを伸ばして、オジー・スミス風にしてはどうだろう。菊池は小柄だがアルトゥーベだって165センチでも結果を残している。きっとアルトゥーベも「その身長ではね……」と何度も言われたことだろう。挑戦を否定する声を覆すにはアルトゥーベや大谷翔平のように圧倒的な結果を残すしかない。それもまた事実である。


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