忘れられない岡田幸文の日本シリーズV打~2010日本一紙面を振り返る
ロッテの岡田幸文が引退した。俊足を生かした異常に広い守備範囲から、エリア66という言葉さえ生まれた守備の人。しかしあえて打者・岡田幸文を振り返りたい。そう、あの2010年、中日との日本シリーズ第7戦での殊勲打を。
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これには個人的な思い入れがある。筆者は当時、新聞紙面を作る部署にいた。そして日本シリーズを担当することになった。担当紙面は選り好みするものではないが、野球ファンにはたまらない作業だ。ただし一つだけ懸念材料があった。このシリーズはもつれにもつれていた。前夜第6戦に至っては延長15回引き分け。試合時間はシリーズ史上最長の5時間43分だった。前夜は一野球ファンとして熱戦を楽しんだが、まさか24時間後、締め切りと格闘する羽目になろうとは……
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第7戦、ロッテが7-6とリードして9回裏。今はなき「すぽると」の特集によると、センターを守っていた岡田は「何かある」と不吉な予感がしていたという。バッターは勝負強い和田一浩。フェンス直撃の三塁打を打たれた。そしてブランコが犠牲フライ。中日はいとも簡単に同点とした。
9回裏でゲームセットなら紙面編集は通常の工程時間とさほど変わらなかったはずだ。しかし、もつれそうとの筆者の予想通り決着がずれ込み延長12回になってしまった。ロッテは今江が四球で出塁。二死ながら2塁へ進んでいた。ここでバッター、岡田幸文。
対するは浅尾拓也ー谷繁元信の最強バッテリー。いま振り返るとえげつない。プロ2年目の岡田に太刀打ちできそうに思えなかった。それは中日もそうだった。外野は前進守備を敷いていた。だが、岡田は浅尾のストレートを鮮やかに打ち返し、打球はワンバウンドでフェンス到達。タイムリー三塁打となった。プロレスラーの力比べのような姿勢で岡田は上川コーチと手を握り合い、激しく喜びを分かち合った。
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ここはストレート狙いだと解説の金村義明が言っていたが、谷繁はどう考えたのか。浅尾はストレートも落ちる球も一級品。ならばフォークでもよかった……というのは結果論か。ストレートで十分打ち取れる、と踏んだのではないか。
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実際、岡田は俊足で長打にすることはできてもいわゆる長距離砲ではない。結局1本もホームランを打たずに引退した。だからこの時の選択肢として直球は間違いではなかったのかもしれない。だが事実として残ったのは岡田のタイムリーでロッテが勝ち越したこと。そしてロッテが日本一になったことだ。
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かくて見出しが決まった。「ロッテ堂々下克上」そして「伏兵岡田12回決勝打」。サプライズ感、そしてドラマチックな展開を「伏兵」の二文字で表したかった。もちろん岡田への敬意を込めて。写真は打球の行方を見つめながら一塁へ駆け出す岡田。その手前には心配そうに外野を向く浅尾が写っている。そう、岡田だけではダメ。ここに浅尾がいることに意味がある。まさに明と暗が分かれた瞬間をとらえた一枚だ。何枚も送られてくる写真の中からどれを選ぶかも編集記者の腕の見せ所だ。この日はとにかく時間がなかったが、汗だくになりながらも思い出に残る紙面を作ることができた。
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あれから8年。岡田は引退の日を迎えた。奇しくも浅尾も今季で引退する。中日コーチだった辻発彦は古巣・西武を率いてパ・リーグを制した。そしてあの日本シリーズに岡田を起用した西村徳文は来季、オリックス監督として再建を託された。そして筆者もすでに紙面編集から遠ざかっている。誰一人立ち止まっている者はいない。
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熱心なロッテファンほど、もっともっと岡田の名場面を知っていることだろう。あいにく筆者はロッテファンではない。それでもあの岡田の一打は忘れられない。そしてたまにYouTubeで見返したくなる名場面だ。何か、頑張ろうと思わされる不思議な力を持っている映像だ。岡田の決勝打を入れた新聞紙面も大切に取っておこう。