ライバルとの距離感をはかる~アジア大会100メートル銅メダルの山縣亮太がつかんだもの
結果を出すことは大事。しかし、結果が出なかった中でも手応えがあればしめたものだ。アジア大会陸上100メートルで銅メダルを獲得した山縣亮太の走りを見ながらそう思った。
銅メダルでも立派なのだが山縣は金メダルを狙っていた。それは高望みでも何でもなく、実際決勝では優勝した中国の蘇炳添に中盤まで食らいついていた。蘇炳添は9秒92の大会新。山縣は2位と同タイムの10秒00ながら、着順が3位となった。
レース後のインタビューが山縣の素直な心境を物語っていた。「9秒91の選手は先にいるかと思ったが、案外近くにいた」
その選手とは9秒91が自己ベストの蘇炳添。山縣亮太は10秒00が自己ベストだからお互い力を出しきったら勝てない。そして、100メートル競技における、しかも競技者におけるこの100分の9秒差は埋めがたいものなのだろう。だが、今回は敗れたとはいえ、はっきりと背中が見えたに違いない。
レベルアップの過程で目標が定まることの意味は大きい。このくらい力を発揮したら到達できるんだと感触をつかめたら、そこを目指すのみだ。言うは易し、行うは難しだが、もはや、やみくもに頑張れという話ではなくなっている。
目標にしていたものが実は手が届きそうな感覚になれるのは、紛れもなく成長している証拠。かなわない、追い付けるわけがないと思っていた存在が、あれ、そんなに遠くないなという距離にいる。その時は思いきって手を伸ばしてみたいものだ。ライバルの襟元に指先がかするかもしれない。そうしたらまた自信が生まれる。金メダルは逃したが、山縣亮太はひょっとしたらメダルに負けないくらい価値のある自信を手に入れたのかもしれない。
ライバルなり目標との距離感で自分の今のレベルや成長具合を確かめる。山縣亮太の言葉から、あらためてその大切さを認識した。山縣亮太の健闘に、桐生祥秀もケンブリッジ飛鳥も多田修平も刺激を受けたに違いない。2020年東京オリンピック100メートル。日本勢の活躍にますます期待したい。