阪急・上田利治監督1時間19分の猛抗議の遠因とは~後藤正治「中断」を読んで
阪急で黄金時代を築いた上田利治元監督が亡くなった。80歳。1975年からの日本シリーズ3連覇をリアルタイムで見たかった。山田久志、福本豊ら元阪急の人たちはいるけれど、上田利治氏が亡くなって名実ともにブレーブスが消滅したように思える。
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オリックス球団最大の失敗はブレーブスの名前を残さなかったことだ。ブルーウエーブになる前の一時期、オリックスブレーブスという時代があった。それでよかったではないか。のちの話にはなるが、ブレーブスでなくなっていたから逆に近鉄バファローズと一緒になりやすかったのであれば皮肉な話。端的に言えば歴史へのリスペクトがない。なのに思い出したように復刻ユニフォームを数試合着たりする。歴史を重んじるというのはそういうことではない。
上田利治氏は最後は日本ハムの監督だったが、やはり阪急、オリックスが主戦場だったのでオリックスには何らかのアクションを期待する。
上田利治氏と言えばやはり1978年日本シリーズでの1時間19分にわたる猛抗議だろう。抗議時間としては異常に長い。待っているお客さんも、もしかしたら選手たちもいい加減そろそろ…と思っていたことだろう。しかし勝負事だからこのくらい粘るのはアリだと思う。
上田利治氏の訃報に接し、後藤正治先生の人物ノンフィクション「孤高の戦い人」を読み返した。岩波現代文庫。125ページから166ページまでが「中断」というタイトルで、上田利治氏がテーマなのだ。上田利治氏や阪急の歴史に触れたい方は必読と言っていい、おすすめの作品である。
人物ノンフィクション〈3〉孤高の戦い人―後藤正治ノンフィクション集 (岩波現代文庫)
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中断というタイトルではあるが上田利治氏に監督のバトンを渡す西本幸雄氏のことから丁寧に阪急の歴史がつづられているのでゴリゴリの野球通でなくとも分かりやすい。もちろん阪急を懐かしみたい方も楽しめるエピソード満載だ。
黒柴スポーツ新聞が特ダネとして付け加えたいのが「高知球場ウナギ事件」。西暦は不明だが高知キャンプに訪れた阪急ナインを激励しようと高知県内のウナギ料理店主が場外でかば焼きを作り始めた。するとおいしそうな香りが場内に到達。練習に支障があったようで上田利治監督に「やめて」と言われた伝説がある。この時の抗議は1時間19分でなく1.19秒で済んだと推定する。
それにしても抗議の発端となったヤクルト・大杉勝男の打球はホームランだったのか、ファールだったのか。この「中断」ではざっくり言うとファールという証言が多い。中沢伸二捕手、加藤秀司一塁手、ブルペンにいた今井雄太郎…。それぞれの証言や置かれていた状況はぜひ「中断」をご覧ください。
上田利治氏の猛抗議はなぜ起きたのか。それは場面が3勝3敗で迎えた日本シリーズ第7戦という大勝負であり、上田利治氏の頑固一徹な性格にもよるのだが後藤正治氏はそもそも第7戦までもつれたのは第4戦の上田利治監督のあの采配の結果だと指摘している。そしてその采配の遠因はシーズン途中の体調不良にあったとみている。
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豊田真由子議員ばりに言えば「物事にはねえ、表と裏があんの」である。いまや個人が情報発信するのは当たり前。プロ野球だって1球速報がある時代。だからこそそのプレーや采配の背景には何があるのかを解く作業が重要だ。上田利治氏の場合は抗議だったがその裏にこんなドラマがからみあっているのかということを学ぶことができた。
良質のノンフィクションはまるで短編映画を見ているような気分にさせてくれる。上田利治氏は亡くなってしまったが数々の采配は書物の中で生き続ける。ご冥福をお祈りします。
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