旭化成ニューイヤー駅伝18年ぶり優勝はカープをほうふつさせる復活劇~村山兄弟、市田兄弟が「ツインズ旋風」
胸に大きく「旭化成」の文字。少年時代、旭化成陸上部のユニフォームはまぶしく見えた。いつしか旭化成の文字は小さくなっていた。ニューイヤー駅伝での低迷期と重なり、実物以上に小さく見えていたのかもしれない。
2017年元日。ニューイヤー駅伝で旭化成は実に18年ぶりの優勝を遂げた。それでも優勝回数は最多22回。まさに古豪復活である。
1区は村山紘太が11秒差の13位と出遅れた。しかし4区市田孝、5区村山謙太、6区市田宏と3区間連続区間賞。そう、旭化成には村山兄弟、市田兄弟という双子が2組もいたのだった。
旭化成で双子と言えば宗茂、宗猛の「宗兄弟」。1980年代の名ランナーである。日本が不参加だった1980年のモスクワオリンピックではともに日本代表であった。宗茂は日本人で初めてマラソン2時間10分を切った人でもある。
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宗体制でチームが強化されたのは1988年から。ニューイヤー駅伝で旭化成は1990年代、1位9回、2位1回というから育成も本番も実にうまくいったことになる。
じゃあなぜ18年も優勝できなかったのかと思いたくなる。最初に言われるのが外国人選手を起用しなかったことだ。ニューイヤー駅伝では2区で外国人選手を投入できる。箱根駅伝でも、高校駅伝でも外国人選手の起用がレースのポイントになることは素人でも分かる。
ただし黒柴スポーツ新聞は外国人選手起用に批判的ではない。むしろ応援している。たまにテレビで各陸上部を紹介するが大概の外国人選手は日本語でしゃべってくれる。それも日本から遠く離れたアフリカ勢がだ。言葉も文化も習慣も別世界の日本で生活していくだけでも大変。プラス陸上生活を頑張るのだから日本人選手もいい影響をもらえるに決まっている。だから全区間外国人選手なんてことがないかぎり外国人選手が参加することは賛成なのだ。
しかしこれと歩調を合わせなかったのが旭化成。宗茂は「旭化成の運動部」という本の中でこう語っている。
「私たちは、正直なところ、日本人の選手を強くしたいんです。なぜかといえば、日本人選手がエースでやっていかないと、チーム全体が育たないというか、強くならないんです」(62ページ)
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この「旭化成の運動部」という本の著者は大野誠治さん。日刊工業新聞や日本工業新聞にいたそうだ。本が出たのは2000年。本の帯には「シドニー五輪マラソン代表・川島伸次、佐藤信之、柔道代表・篠原信一、中村行成・兼三兄弟。旭化成はなぜこんなに強いのか」とある。そう、そのあたりが書いてある。まさにそれが知りたくて編集局長も購入したのだった。
ざっくり言えば旭化成の運動部の精神が「第一に『よき社会人たれ』、第二に『よき企業人たれ』、第三に『オリンピックの勝者たれ』」だからである。ただスポーツで強いというだけではだめなのだそうだ。
その代わり、というわけでもなかろうが選手は正社員なのだそうだ。引退してもそのまま社業をやる、と書いてある。もっともこれは本が出た時点での話で今のシステムは分からない。ただ外国人選手を起用していないあたりをみても基本姿勢は変わってなさそうだ。
とはいえ、とはいえだ。言うは易し、行うは難し。実際にはニューイヤー駅伝で旭化成は17年間も勝てなかった。競技は違うがこのあたり、自前の戦力の強化を選び低迷期を味わった広島東洋カープをほうふつさせる。黄金期を知らない村山兄弟、市田兄弟の加入、活躍はさしずめ優勝を知らない世代のタナキクマルや鈴木誠也の躍進とダブるところがある。
そしてあえて寝た子を起こしてみる。旭化成建材は2015年、くい打ち工事で虚偽データを使うという不祥事を起こした。会見には旭化成の社長が出ていたからグループとしてのおわびということになる。企業スポーツにとって親会社の不祥事のダメージは計り知れない。下手したら活動自粛もあり得る。優勝から遠ざかっていた時期だけに旭化成陸上部も大変だったことだろう。
不祥事が発覚する前の入社ではあったが、村山兄弟はあえて優勝から遠ざかっている旭化成を選んだのだとしたら男気があるなと思う。今現在強いチームに行く、調子のいいチームに行くというのは選択肢として当然。村山兄弟といえば箱根駅伝でも名をはせた。そういう人にはさまざまな選択肢があるはずだ。箱根駅伝で活躍することは就職先を決めることと言ってもいい。有力選手はあちこちの著名チームに進んでいるのだ。
【コニカミノルタ】
【Honda】
【日清食品】
【富士通】
【トヨタ自動車九州】
以上、ぱっと目についた人だけ書いたが箱根駅伝ファンが見たらもっといっぱい事例があるだろう。箱根駅伝はまさに「走る就職活動」である。でもずるいとも思わない。頑張った人にはそれ相応のご褒美があってしかるべきである。
村山兄弟は村山謙太が兄、村山紘太が弟。面白いのは別々の大学に行ったことだ(謙太=駒大、紘太=城西大)。ウィキペディアによれば弟の紘太が「兄のまねだけしていては勝てない」と考えてのことだという。世の中的に双子は服まで一緒のイメージがあるが双子でもライバル、競争相手だという思考は大好きだ。
そのかいあってか村山紘太は10000メートルであの高岡寿成の記録を破り27分29秒69の日本記録を樹立。オリンピックにも出場した。
なおこの記事中で「謙太、頑張るぞ」と「弟」に呼び掛けていたとあるが「兄」の間違いではないか?
そういう意味では村山兄弟の地元、宮城の河北新報記事はさすが手厚い。信頼感、安心感。やっぱり地元の情報はなんだかんだで地元紙が一番だ。応援したい気持ちがこもっているから読み手も応援したくなる。ぜひ下の記事もチェックしていただきたい。
何となく、だが村山兄弟が旭化成を選んだ理由が分かる気がする。そして地道にこつこつやる旭化成運動部に合っているように思える。このあたりが旭化成復活の理由と黒柴スポーツ新聞は見た。村山兄弟にもレジェンド宗兄弟ばりの活躍を期待している。
1月3日追記。ニューイヤー駅伝に今後出るかもしれない若者たちによる箱根駅伝記事もぜひご覧ください。
tf-zan96baian-m-stones14.hatenablog.com
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1月8日追記。関東学生連合で出場した照井明人選手の記事も書いてみました。幻の区間賞だったけれどカッコよかったです!
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