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黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るワンシーンやプレーヤーについて綴ります。

人生はどう転ぶか分からないから楽しい~後藤正治氏が綴るミスターラグビー平尾誠二の楕円的人生論

ミスター神戸製鋼、ミスターラグビー平尾誠二氏が亡くなった。53歳という若さ。何より2019年ワールドカップを前に亡くなったことが悲しい。黒柴スポーツ新聞編集局長はラグビーファンでもないけれど、合理的な平尾誠二の思考には引かれていた。


確か大好きな後藤正治氏の作品に平尾誠二を扱ったものがあったはず。本棚を探すと、あった。「人生の冒険者たち」に収められた「楕円球、自在なり」である。きょうはこれをテキストにする。あらためて読んでみると無駄な表現がない。洗練された文章は読んでいてすがすがしさを感じる。

人生の冒険者たち

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平尾誠二は全国制覇した伏見工高時代も有名だが、ラグビーに出合ったのは京都市の陶化中学時代。「楽しむラグビー」の原点はここにある。顧問の寺本義明先生は兄貴的な雰囲気で、生徒と一緒にラグビーを楽しんでいたそうだ。他の部はやたら先輩が怒鳴っていた。平尾誠二は思った。「怒鳴ったってうまくなるわけじゃないのに」。


いる。部活動やスポーツの取材でも見たが、確かにいる。指導者でもやたら高圧的な態度で支配しようとする人が。支配という発想自体がいけない。指導的な立場の人には才能を上手に「導く」ことを念頭に置いてもらいたいものだ。


その点、平尾誠二は指導者に恵まれていた。ドラマ「スターウォーズ」のモデルになった伏見工高の監督は山口良治平尾誠二の中学時代のプレーに魅せられ自ら口説いて伏見工高に入れた。平尾誠二もまたこの「泣き虫先生」の喜ぶ顔が見たいと思って高校時代を過ごしていた。

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後藤正治氏はこう表現した。「山口という人一倍情感溢れる男のもとで、平尾は多感な思春期を送っている。知識や理屈よりも、『情』に接することが必要な季節があろう」(182ページ)。ここで「時期」と言わずに「季節」という言葉を選ぶ感覚が大好き。黒柴スポーツ新聞編集局長の個心の師匠である。


平尾誠二同志社大学在学中に史上初の大学選手権3連覇を果たす。入学したころの同志社大学は戦後第二期の黄金時代を迎えていた。名将・岡仁詩平尾誠二が抱く、ラグビーについての「なぜ」に的確に答えられる人物だった。「たかがラグビーじゃないか。ラグビーだけじゃ人生寂しいじゃないか」という岡仁詩の言葉は平尾誠二にも合っていた。一芸に秀でるのは素晴らしいがそれで人生に幅が出るとは限らない。

ラグビー・ロマン―岡仁詩とリベラル水脈 (岩波新書)

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実際、平尾誠二は大学卒業後、イギリスに渡っている。家具デザイナーか起業家になりたかったそうだ。どちらでも平尾誠二の柔軟な思考で大成功しそうに思うが再びラグビー界に戻っている。口説いたのは神戸製鋼専務(当時)の亀高素吉だった。


神戸製鋼では社会人選手権7連覇を達成した。1991年1月8日、三洋電機に対し12-16と敗色濃厚だった神戸製鋼はイアン・ウイリアムズの逆転トライで社会人選手権3連覇を達成した。それをアシストしたのは平尾誠二の無意識のパス。右目の端でウイリアムズを認識しながらもパスが渡ったのは「運」だったという。


Amazonで見たら平尾誠二の著書はたくさんある。その中でも気になったタイトルがこれ。「理不尽に勝つ」。平尾誠二が書いていたように世の中、理不尽だらけである。黒柴スポーツ新聞編集局長も入社1年目、歓送迎会で上司に言われた。「理不尽なこと言われたらどうする?」。あのう、その質問自体が理不尽なのですが…。

理不尽に勝つ

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理を重んじる平尾誠二が「理不尽なことを経験すればするほど強くなれる」というのだから、やってみる価値はある。もちろん心身を害するほど自分を追い詰める必要はない。


平尾誠二阪神淡路大震災を経験している。その時悟ったのは人間の無力さ。そして現状を受け入れるしかない、気持ちを切り替えるしかないということだった。大切なのは理想の人生にできるだけ近づこうとすること。その過程にこそ生きることの醍醐味や喜びがあると説いている。


人生はどう転ぶか分からないから楽しい、と思えるのは強者の論理に思える。だがそうとでも思わなければ一歩踏み出せないのも事実だ。


平尾誠二が書いているように世の中はフェアではない。尊厳が踏みにじられた結果若くして自殺してしまった電通社員のニュースを見るたびたまらない思いがこみ上げてくる。これを読んでくださっている方でもしつらい思いをしている方は本気でその状況から逃げるのも手だ。逃げると決めたら全力疾走あるのみ。逃げ切って下さい。ぶち当たって打開できる人はそうすればいい。もし当事者でなくとも周りでしんどそうな人がいるならば手を差し伸べていただきたい。「上手に気付かない人」には決してならないでほしい。自戒も含めてそう書いておく。


普段はきょうの1枚として黒柴スポーツ新聞編集局長所蔵の野球カードを紹介しているがあいにくラグビーにまつわるものはない。きょうは平尾誠二氏追悼の気持ちを込めて著書を紹介させていただく。編集局長も折を見て読むつもりだ。日本のラグビー界は平尾イズムをしっかり受け継いでもっともっとラグビー界を発展させてほしい。

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