黒柴スポーツ新聞

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大舞台に縁がある人、ない人~元世界王者の浅見八瑠奈、五輪の畳に立てないまま引退

柔道の浅見八瑠奈が引退表明した。黒柴スポーツ新聞編集局長が購読している新聞の見出しには「世界2連覇」とあった。だがその栄光よりも、五輪を逃した人としての印象が拭えない。


もう、吹っ切れたのだろうか。


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浅見は女子48キロ級の選手で愛媛県・新田高校から山梨学院大学に進学。4年の時の2010年世界選手権で優勝した。翌2011年と連覇したが2012年のロンドン五輪代表は逃してしまった。


甲子園を見る時はテレビをつけた時点で負けている方を応援する編集局長的には、代表選考において浅見、ではなく福見友子を応援していた。


別に浅見に負けてほしいと思ったわけではない。劣勢に置かれていた福見を応援したかっただけだ。


だがまさかの出来事が起きた。選考大会でもある全日本体重別で浅見が1回戦で負け。その相手を下して福見が優勝。「大逆転」で代表の座を射止めた。2016年に置き換えれば、ベイスターズがCSで巨人を倒してさらに広島を倒してセ・リーグ王者になるイメージか。


こうなったら面白いなと思ったことが罪に思えるほどの、ありえない結果。五輪でメダルをうかがおうという浅見が代表選考大会の1回戦負け。本人も訳が分からなかったのではないだろうか。


浅見八瑠奈・鈴木桂治が初戦敗退…選抜柔道 : 柔道 : 柔道・格闘技 : ニュース : ロンドン五輪2012 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


しかしドラマは終わらない。福見は代表になったものの、まさかの5位。「浅見を出していれば」論がぶり返してしまった。


そして2016年。福見はすでに引退しており、近藤亜美との代表争いとなった。だがまたもや選考大会でまさかの1回戦負け。近藤が優勝して代表となり、リオで銅メダルを獲得した。


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競技は違うが、伊調馨のように五輪4連覇する人がいる一方で五輪に出られさえしない人がいる。この差は何なのだろう。学校や職場を振り返ってみる。効率よく結果を出す人とそうでない人の差。プレッシャーに強い人、弱い人。勝つべくして勝つ人にも密かなドラマはあるのだろうが、大舞台で力を発揮できない人もいる。それも実力と言ってしまえばそれまでだが、浅見には世界を制した実力があったにも関わらず五輪には縁がなかった。


28という年齢もある。リオ出場が断たれた時点で腹をくくっていたのかもしれない。だがすぐに態度表明はせず、10月の国体に愛媛代表として出場し、引退を表明した。「いい思いも、苦しい思いもした」「全てがいい経験だった」と語ったが大粒の涙を流していたという。


「やりきったので悔いはない」そうだがその涙はどんな意味合いだったのだろうか。


メダリストが80万人の大観衆に祝福されたパレードとそう変わらない時期に、元世界王者が畳から降りる決意表明をする。レベルが高ければ高いほど結果が重視されるスポーツの世界ではあるが、あらためて勝負の世界の厳しさを実感した。


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五輪初出場の時期が16歳、17歳、18歳と少しずつ違うだけでも複数回五輪に挑戦できる可能性も違ってくる。16歳なら20歳、24歳、28歳で4回目までいける。18歳なら22歳、26歳、次は30歳だ。選手によって年齢と体力にはさほど落差がないかもしれないし、カーリングやマラソンのように経験が力になる競技もある。


だがまさに闘う競技の一つであるレスリングでは吉田沙保里も東京では38歳。現役を続行したとしてもこれまでのようにはいくまい。4年後、浅見は32歳。柔道選手としては体力的にも厳しいのだろうか。


浅見の競技人生をたどると、五輪が4年に1度しかないことが厳しく思えてしまう。ロンドンを逃したショックから立ち上がり、もう一度リオに挑戦した姿勢には心を打たれた。そこで次も手をさしのべないなんて、柔道の神様は何と厳しいのだろう。


代表選手がいたらそれと同じ数だけ「次点」の選手がいる。浅見は一線を退いたが、東京を目指す人たちの戦いはもう始まっている。


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