「山本一義の一球談義」は人生の最高の教科書~元広島の4番、鉄人・金本知憲を育てた男に捧ぐ
元広島の中心打者でロッテ監督も務めた山本一義さんが9月17日に亡くなった。享年78。広島の優勝に配慮して少し遅れての公表だそうだが山本さんの意向らしい。最期まであふれたカープ愛。このエピソードだけでも泣きそうになった。
広島ファンではない黒柴スポーツ新聞編集局長がなぜ山本さんに引かれたのか。それは山本さんと同じ法政大学出身だから。著書「山本一義の一球談義」(渓水社)に出合い、文章からにじみ出る人間性に惚れた。一度でいいからお話ししてみたかった。
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著書によれば山本さんは1938年、広島県生まれ。1957年広島商業高校を卒業。1961年、法政大学を卒業し、広島に入団した。著書に出てくるが高校、大学の大先輩である鶴岡一人・南海監督に引かれ一度は南海入りを決意。しかし中国新聞社員だったお父さんの落胆が激しく、広島入りに翻意した。
この一件を詫びたところ、鶴岡監督は「広島を強くすることが一番だ。カープを頼む」(96ページ)と逆に励ました。山本さんはまた感動してしまった。鶴岡御大はスケールがデカすぎる。男の中の男はこういう人のことをいう。
著書は日本農業新聞に掲載したコラムをまとめたものだが、こんな調子で「いい話」「ためになる話」がバカスカ出てくる。山本さんの数々の感動が伝わってくる。今回、山本さんにお線香をあげるつもりで訃報を耳にした昨日から読み返したが、背筋がピンと伸びる話ばかりだった。「山本一義の一球談義」は人生の教科書である。
球団は違うが山本さんに多大な影響を与えたのが長嶋茂雄。若かりし頃、球場入りするまでの様子を見させてもらったが、体操を念入りにやるとか、食事を大切にする姿勢に感銘を受けた。
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打撃を教えてほしいと乞うとこう言われた。「カズよ、バッティングの話は三割打ってから来いよ」(205~206ページ)。しびれる。決して冷たくあしらっているのではない。それ相応のレベルになれという叱咤激励なのだ。
もちろん山本さんにもそれが伝わった。だからこそ死に物狂いで3割を目指した。ついにプロ入り6年目の1966年シーズン、最終戦で1打数1安打なら3割打者になれるチャンスがやってきた。だがガッツマン・山本一義ですら前夜、弱気の虫が頭をもたげてきた。その時、お父さんの言葉が浮かんできた。
「“運”は運ぶという意味だ。あらゆることに辛抱し頑張って自分の人生を積極的に運んでいけば、必ず“運”は開ける」(206ページ)
一晩中バットを振ろうという決意を実行し、なんと昨夜のユニフォームのまま球場入りするバスに乗り込んだ山本選手。果たして3割に到達したのかどうか…は「山本一義の一球談義」を読んでのお楽しみ。
山本一義がどんな人かって、弟子を見れば分かるというもの。高橋慶彦、山崎隆造、木村拓也をスイッチヒッターとして花開かせ、長内孝、金本知憲、緒方孝市も鍛えた。鉄人・金本の師匠というだけでどれだけ骨太かが分かるだろう。
※サンスポ記事(虎・金本監督、山本一義氏の訃報に悲痛 打撃に関しては一番の恩師」)はこちらhttp://www.sanspo.com/baseball/news/20161004/tig16100405040001-n1.html
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除夜の鐘に合わせて108回の素振り。元旦から3日連続で、4時間の山歩きトレーニング。気合が違う。ともすれば気合とど根性で何とかしろという人物に見えそうだが、時代は変わっても大切なものは大切だという姿勢は、精神論が嫌いな編集局長も共感できた。
山本さんは1982、83年にロッテ監督を務めた。順位は5位、6位とふるわなかったが、もしも広島の監督になっていたら手塩にかけて育てたたたき上げの選手をずらりと並べて恐ろしいチームにしたのではと思ってしまう。
カープナインやOBとしては25年ぶりの優勝で何とか山本さんに恩返しができたことになる。亡くなられたのが9月17日。リーグ優勝が9月10日だから、ほっとされてしまったのかもしれない。
亡くなられたのはとても残念だが、事あるごとに「一球談義」を読み返すことで弱気を払しょくしたり、姿勢をただしたりしようと思う。ご冥福をお祈りします。皆さんもぜひ人生の応援歌、「山本一義の一球談義」を手にとってみてください。
きょうの1枚は金本。指導者の熱意と選手の才能と努力がうまく融合したら素晴らしい選手に成長するんだな、と、山本さんの弟子を見たら実感できる。金本監督には来季若虎を鍛えて大暴れすることで山本さんに恩返しをしてほしい。このカードの金本、若くてまだまだユニフォームが緩い着こなし。鍛えられ、鍛えてプロ野球選手の体になるんですね。