黒柴スポーツ新聞

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ウィルチェアーラグビー日本、歴史刻んだ銅メダル~激闘の果てに見えた感動と課題

ウィルチェアーラグビー日本代表は18日(日本時間)、カナダとの3位決定戦に52-50で勝利。銅メダルを獲得した。


池選手の地元紙、高知新聞記事はこちら。 https://www.kochinews.co.jp/article/50092/



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世界ランク1位のアメリカとの激闘後、続く準決勝のオーストラリア戦ではミスを連発し2連敗。停滞ムードが気掛かりだったがこの日の日本は再び輝きを取り戻していた。


明らかに闘志に火を付けたプレーがあった。エース池崎大輔選手が、立ちあがりにカナダ選手が保持するボールを、一瞬の隙を突いて奪いそのまま得点。一気に日本に流れが来た。池崎選手はアメリカ戦終盤、痛恨のお手玉から流れを持って行かれた。それを見事に、大事な3位決定戦で挽回した。得点後、池崎選手は「どうだ!」とばかりにバーンとボールをフロアに叩きつけて闘志をむき出しにした。


「一度沈んでもいいから、明日までにはちゃんと戦える自分たちをつくろう」


主将の池透暢選手(高知県から出場)のインタビューによると、準決勝で敗れた後にそんな話が選手たちの間でなされたという。これはアスリートでなくとも見習いたい姿勢。立て直せねばファイティングポーズは取れない。ミスをして落ち込んでも、消化できれば落ち込むことにも意味はある。


オーストラリア戦では前半機能しなかった、池選手と池崎選手のコンビネーションもカナダには面白いように決まった。オーストラリアには14回も喫したターンオーバーも日本は第1ピリオドで4度記録。17-13と4点差で終えた。結果的にこれが大きな貯金となった。


カナダ戦では若山英史選手が相手のパスをカットしたり、乗松聖矢選手が相手選手の進路をふさいだりと、ローポインターが効果的に動いていた。見えないところでエースを支える動き。ウィルチェアーラグビーは障害が比較的軽い選手から重い選手までの4人が力を合わせてプレーする。その醍醐味を教えてくれるプレーだった。


「先輩たちはロンドンから4年間頑張ってきた。絶対にメダルを取って帰りたかったので、本当によかったです」と乗松選手。チーム最年少の26歳(9月7日現在)であり、パラ自体も初出場。高校野球でもよくあるが、上級生に交じってレギュラーを取った下級生の心境だったことだろう。先輩への思いやりが込められた試合後のインタビューだった。


一時は5点差を付けたもののじりじり追い上げられ、40-39と1点差まで詰められた場面も。しかしすぐに池選手のパスカットや乗松選手の好ブロックなどでしのいだ。


52-49で残り13秒。あれ、このまま勝っちゃう? 52-50になっても残り0.7秒。日本ベンチが映る。


(実況)さあ、日本のベンチは今、各選手が隣の選手の車いすに手をやって、試合終了を待っています。悲願のメダル獲得へ向けて、ああーっ、すでにもう感極まっている選手もいました。ベテランの島川。


黒柴スポーツ新聞編集局長も、4大会連続出場の島川慎一選手が涙をこらえるかのように天を仰いだのが目に入った。島川選手の突破力、本当に惚れ惚れする。クールに見える島川選手が泣いている…。いや、待ち望んだ年数が長かった分だけこらえきれない思いがあふれるのだろう。何を隠そう、島川選手の姿を見た瞬間、編集局長も涙を流すスイッチが入った。これ、泣く展開だな。


(実況)試合終了のブザーを待ちます、日本のベンチ。荻野(晃一)ヘッドコーチです。2年前にヘッドコーチに就いて、このパラリンピックでのメダルを目指してきましたニッポン! さあ、日本のインバウンドで始まります。池崎が持って…


「ファーーーーン」


試合終了を告げる音がアリーナに響いた。


(実況)ここで試合終了ー! ニッポン、初めてのメダル! 銅メダル獲得っ! ニッポンやりましたっ! やりましたニッポン! 悲願の、悲願のメダルです!


腕を高く上げた池選手。池崎選手とがっちり抱き合った。この瞬間、編集局長の涙腺決壊。涙が頬を伝うのが分かったがそのままテレビ画面を見続けた。池崎選手は勢い余って転び、フロアに寝転がって、すぐ起き上がった。ベンチでは島川選手が荻野ヘッドコーチと抱き合っていた。歓喜の輪が広がった。


50-47あたりで、リードしてはいたものの池選手と池崎選手の連携がうまくいっていないように見えた。ベンチタイムアウト中は池崎選手が高ぶりを抑えられず飲料の入ったボトルをフロアに叩きつけたり、タオルを投げるシーンも見られた。「ちょっと池崎選手、ヒートアップしていますので、冷静さも必要です」と解説の峰島靖さん。土壇場で気持ちを一つにできていなければ危ない。ひやっとしたが51-48としたところで二人はコミュニケーションを取っていた。この場面は見ていたものの、試合終了直後に抱き合う姿を見て本当にほっとした。


池崎選手のヒートアップも、もう1秒も0.5秒も気は抜けないんだぞという気持ちが引き起こしたものではなかったかとみている。よかった、と安堵するように試合後に上を向きながらゴーグルを外す姿が印象的だった。「(試合中)何を考えていたかと言えば、正直答えることができない。自分の役割を果たす。コートを見る。ゲームメイクをする。正確なパスを出す。コミュニケーションをとる。そういうところに集中していたので、もういっぱいいっぱいな状態でした」。やっぱりね。


ウィルチェアーラグビーでも世界に挑戦できると、日本のウィルチェアーラグビーは強いんだと。いろんなハンデを背負っていながらも、もっともっとスポーツの力で自分の可能性を引き出してどんどん挑戦していきたい」「とても魅力的な競技なのでこの競技にも恩返ししないといけない」


池崎選手の口ぶりにはこの競技の第一人者としての責任感があふれていた。


池選手にとってパラリンピックは「生きてきた証」だという。その過程には多くの人との関わりがあった。それへの感謝の気持ちを大切にしている。


「たくさん成長させてもらった人たちに、本当に感謝したいし、これからも自分の背中をずっと押してもっともっと上へ押し上げてもらって、次の目標である頂点へ私を連れて行ってもらいたい」


ここまで言われたら、これからも背中を押したくなるじゃないですか。


東京で銅を上回る結果を残すのに、早くも厳しく見えることがある。現エースの年齢だ。「現役最高の車いすラグビー選手」、オーストラリアのライリー・バット選手は27歳。カナダのザック・マデル選手にいたっては22歳。東京ですら20代だが池選手は36歳から40歳に、池崎選手は38歳から42歳になる。今回島川選手が41歳でも元気に活躍したように40代だからといってハンデがあるわけではない。しかし、あまりの激闘の連続に忘れていたがウィルチェアーラグビーの選手は握力がなかったり、やけどや脚の切断、けい髄損傷などさまざまなコンディションなのだ。エースの運動能力の維持、向上とそれを盛り立てるローポインターのさらなる成長は専門家でなくとも必須課題に見える。


これからメダリストがそれぞれの地元に凱旋する。その後の普及啓発活動で選手の発掘・育成につなげられるかも大事だ。感動が冷めないうちにウィルチェアーラグビーの素晴らしさを一人でも多くの人と共有しなければならない。これは私たち見ている人たちに与えられた課題。課題というと重たいので、まずはこの感動や興奮を一人でも多くの人とシェアしよう。それがきっと後押しになる。