黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

伏兵城所龍磨9年ぶりホームランから上田和明涙の決勝ホームランに飛躍

ソフトバンク城所龍磨が5月19日の日本ハム戦で9年ぶりのホームランを放った。単に久々に打っただけでなく、代打で試合を決める一発。城所は特に期待されていないことを、照れ隠しもあったか自嘲気味に言っていたが、日ごろの努力を見ていた野球の神様がご褒美をくれたようだ。

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野球のいいところは、どんな選手でも打席に立ちさえすれば活躍へのチャンスは与えられる。だがそれは打席に立てなければ打つ方での活躍が絶対にできないことを意味する。プロ入りして一度も1軍のバッターボックスに立てない選手は割合としてどのくらいいるのだろうか。また、もう一つ野球のいいところとしては打つのがダメでも投げる方とか守る方とか走る方でアピールができる点。もちろんスペシャリストである必要があるが。

 

その点、上田和明はこれといったアピールポイントが思い浮かばない選手だった。なぜ今上田かと言えば、城所のような伏兵の一発でどんなのがあったかなと思い返して出てきたから。渋い選手なのでなかなか裏が取れないが、どうやら1989年の初ホームランが延長12回に放ったいわゆる「上田涙の決勝ホームラン」のようだ。コアなプロ野球ファンなら知っている、あの、打ったあとつるっと滑ってしまうやつ。一説には守備固めで入ったため守備用スパイクを履いて打席に立った結果滑ったという。これも含めて通算ホームランは8年間で5本だった。

 

 

黒柴スポーツ新聞編集局長はナイターを見ていたような気もするが果たして延長12回まで中継があったかどうか怪しい。ニュースのスポーツコーナーで見たのかもしれない。だがものすごくうれしかった。普段目立たないクラスメイトがすごくいいことをして褒められてなぜか自分までうれしくなってしまうような気持ちになった。思えば少年時代から細かいとこばかり気になった。一例をあげれば、上田のように、レギュラーではなかった福王昭仁が初ヒットを打った後に王貞治監督がタイムをかけて「そのボールをくれ」と合図して巨人ダグアウトにボールが転がってきたシーンは王さんはなんて優しいんだと思った、とか。ただし何十年も前のことなので記憶が盛られている可能性もある。一応1988年は王監督で合っていました。

 

 

上田って目立たない選手なんだなとしか思っていなかったがプロ入り前にはロサンゼルス五輪で公開競技だった野球の日本代表として金メダルを取っている。ネット上では上田のことをたいしたことないという書きぶりばかりだが金メダリストである。それとプロの世界は違うだろと言われるだろうが、プロが国際大会に出られるようになった1998年以降の五輪で金メダルが取れていないのは事実。 上田をただ残念な人と言うのはやめてもらいたい。なお金メダルへの道については以前、法政大学の監督も務められた松永怜一氏の「野球現場主義」を読んだ。興味がある方はぜひどうぞ。

野球現場主義

野球現場主義

 

 

 

上田のカードは持っていないのだがネット上では見つかるだろうとAmazonで検索してみたが見当たらず。「巨人 上田」で探してヒットしたのがチアリーダーの「上田さん」だった。あのう、上田は曲がりなりにもプロ野球選手だったんですが…。やっぱり残念な人なの??? ベースボールマガジンはチアリーダーのカードまで出しているんだな。

 

 

もっとも、上田はきちんと金メダルを取ったことを消化しているように見えた。久々に読み返したくなった。西村欣也著「朝日新聞が伝えたプロ野球」に収録されている「輝いた瞬間」。上田にスポットを当てているが、文庫本ではわずか3ページ。なのに人生みたいなものまで考えてしまう。この本は朝日新聞に掲載したコラム「EYE 西村欣也」と「閑話休題」に加筆したものが収録されている。ゆえにもともと一つ一つの章がボリュームのあるものではない。いや、だからこそ上田という目立たない(プロではそういう結果だったのも事実=通算61安打)選手のその後も追えたのだろう。「輝いた瞬間」での上田は編成部用具係の仕事をしていた。

朝日新聞が伝えたプロ野球 (小学館文庫)

朝日新聞が伝えたプロ野球 (小学館文庫)

 

 

 

 いわゆるあの人は今的な取材ではない。西村氏は迷いながらも金メダルのことを聞きに行っている。この迷いながらというのがポイントなのだが、詳しくは本でお読みいただきたい。上田は金メダルの存在を「背骨みたいなもの」と表現した。過去の栄光を懐かしむというのと、似ているようでまったく違う受け止め方に思えた。そもそも誇りなどというのはひけらかすものではなく、何かのタイミングで立ちかえる場所なのだろう。本の中では、上田は愛媛の実家に帰るタイミングで金メダルを触っていると書かれている。

 

 

5月18日投稿分では失敗論を書いたが、うまくいった時の経験や思い出をどう整理するかでその後も違ってきそうだ。悦に入るでもなく、自分だけのちょっとしたプライドは密かにポケットにしのばせる。そんな生き方も素敵だ。

tf-zan96baian-m-stones14.hatenablog.com

 

 

きょうの1枚は本文にも出てきた福王。ウィキペディアを見返していたら明治大では広沢克己とクリーンナップを形成していた。六大学では首位打者にも輝いていたんだな。プロでは主力ではないけど13年で500試合も出ていてそっちの方が感動する。13年で通算120安打。イチローや秋山翔吾のように1年で200本ヒットを打つ人もいるが、1年平均10安打でもプロの飯を13年食える福王はやっぱりすごい。「プロ野球戦力外通告」なんて番組を見ていると、近年は芽が出ないとすぐ辞めさせられる印象でちょっと寂しい。いぶし銀、この1本を打ったから来年もプレーできる、そんなギリギリの選手もプロ野球の構成要員であることをかみしめながら2016年もプロ野球を楽しみたい。

 

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