黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

1988年涙の胴上げ投手・郭源治

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台湾で総統選挙があった。

日本とは国交がないが、野球ではつながりがある。

過去、名選手が何人も来てくれた。

今回はその中から、一番好きな郭源治の話をしたい。

 

「郭はもう泣いています」

1988年のセ・リーグペナントレースは中日が制した。

その瞬間、マウンドにいたのは郭源治だった。

10月7日、午後9時頃。

「男と女のミステリー『飢餓海峡』の時間ですが…」

フジテレビはドラマの放送を繰り下げ、ナゴヤ球場からの中継を始めた。

地上波でのプロ野球中継が激減してしまった現在では考えられない。

プロ野球ファンとしてはありがたい対応だ。

 

当日の実況は、東海テレビ吉村功アナウンサー。

好き嫌いが分かれるかもしれないが、本紙編集局長は、味のある語り口、クセのある語り口が大好きだ。

解説は谷沢健一藤波行雄

完璧な布陣だ。

 

試合は中日がヤクルトを11-3と大きくリードしていよいよ9回。

締めくくりはもちろん、守護神・郭源治しかいない。

ツーアウトとなり、バッターは秦。

「1988年の長いペナントレースが終わろうとしています」

吉村アナも締めくくり態勢へ。

直後、マウンドの郭の目頭が熱くなっていることに気付いた。

「郭はもう泣いています、郭はもう泣いています」

 

弟さんが事故に

実はシーズン中、郭源治は弟さんを事故で亡くしていた。

試合後のインタビューで、ツーアウトから目頭を抑えていたと質問された。

「弟のことを思い出したんです」

「本当は9月ぐらいに日本に呼ぶ予定でした」

「もしいたらこの試合が見れると思う。本当に残念ですけど」

「だから、もし弟が見たらうれしいかなと考えた」

きっとナゴヤ球場のどこかで、弟さんが見守ってくれていたに違いない。

 

なだれ込んだ熱いファン

「昨日セーブ記録を作りました、郭源治が早くもマウンドで泣いてます」

「ツーエンドワン、4球目、第4球目を投げた、空振り三振、試合終了!」

 

郭源治は膝を地面に付けながら渾身のガッツポーズ。

マウンドに駆け寄ってきた捕手・中村武志と抱き合った。

そして、帽子をつかみ取り、顔をくしゃくしゃにした。

選手が抱きつきにきた。

ものすごい数のファンがなだれ込んできた。

「ああ、お客さんが飛び込んできた。昭和49年の再現だけはやめてほしい」

どうやら、胴上げも、共同インタビューもなかったようだ。

今回はナインがソッコーで胴上げしたため、最低限のことはできた。

 

なお、1982年に横浜スタジアムで小松が胴上げ投手となった際も、ファンが押し寄せた。

熱い中日ファンお家芸なのであろうか?

「共同インタビューなどは、ちょっとできる状況ではありませんね。喜びの声を聞いてみたいと思いませんか」

本紙が言いにくいことを、生中継でズバッと言った吉村功アナ。

さすがである。

喜びの瞬間は、みんなで分かち合いたいものだ。

ともかく中継してくれたので、喜びを「シェア」できた人はいっぱいいた。

当時Facebookがあったなら、相当数「いいね!」されただろう。

 

「きょうはもちろん、セーブもつきません。勝利投手にもなりません。セーブポイントもつきません。それでも、こんなうれしい一球はありませんでした」

吉村節が炸裂した。

 

危うくファンになりそう

今回の執筆にあたり、1988年の中日優勝の軌跡をYouTubeでいろいろ見た。

彦野、立浪、山本昌、上原、杉本、小野、郭、大宮、落合、宇野、ゲーリー、仁村兄弟…と、何人も名前が挙がる熱い全員野球。

逆転劇あり、サヨナラあり。

見ていてこちらまで熱くなる。

あの日熱くなったファンの気持ちが、分かる気もする。

さて、郭源治については下に紹介している森哲志さん著「不屈のプレイボール」をぜひご覧いただきたい。

原点はお父さんからの贈り物。

人生はいつ、どう変わるか分からない。

 

もう一度、地上波への復権を

吉村功アナのもう一つの名実況については、また別の機会に。

そして、手続きなしで見られる地上波で優勝の瞬間が割り込んで放送されるくらい、プロ野球がコンテンツとして再評価されることを願う。

そのためにも、このシーズンのドラゴンズのように何度も「反すう」したくなるような、熱いゲームを積み重ねてほしい。

 

※写真は1993年版ベースボールマガジンの野球カードを使わせていただきました。

 

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