黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

忘れられない人~横浜Fマリノス松田直樹と阪急の西本幸雄監督

サッカーファンでもないのに感動した。15年ぶり優勝の横浜Fマリノス。今季限りで引退の栗原勇蔵がシャーレを掲げた。それだけでもいいなぁ、と思わされたのだが、今度は背番号3のユニホームを着ていた。故・松田直樹の背番号3。そこまで思われる松田直樹はカッコいいし、松田直樹を忘れない後輩たちやサポーターも素敵だな、と思った。感動した。

もうひとつ、ユニホームが披露されるシーン(写真)が心に残った。スポニチ記事、オリ「西本幸雄メモリアルゲーム」来年4・25西武戦で開催 生誕100年、阪急復刻ユニ&背番50、の写真には阪急ブレーブスのユニホームが写っていた。背番号50。故・西本幸雄監督のものだ。生誕100年にちなみ、みんなで同じユニホームを着用するそうだ。発案者は阪急・オリックスOB会長の山田久志西本幸雄を親父のような存在だと慕っていた。

 

阪急ブレーブス 勇者たちの記憶 (単行本)

阪急ブレーブス 勇者たちの記憶 (単行本)

 

 

死してなお忘れられない人に共通するものはなんだろう。まず思い浮かべるのは情熱。サッカーに詳しくはないのだが、愛着のあるFマリノスを戦力外になった松田が他チームに行ってまで現役にこだわったのはとにかくサッカーが好きだったから。「オレ、マジでサッカー好きなんすよ」は魂の叫びに聞こえた。

 

闘争人―松田直樹物語 (SAN-EI MOOK)

闘争人―松田直樹物語 (SAN-EI MOOK)

 

 

西本幸雄監督もまた激しかった。鉄拳制裁と言えば近鉄時代に羽田耕一が食らったエピソード(山口高志の高めの速球を見送れと円陣で言ったのに羽田が手を出して怒られる。しかし羽田は回の先頭打者でその指示は聞けていなかった)が知られている。暴力はよくないのだが、そこまでやるかと思わされるエピソードだ。近鉄監督を務める前の阪急時代はとにかく練習させた。猛練習に鉄拳制裁。そこに愛情がなければ慕われることはない。

 

パ・リーグを生きた男 悲運の闘将・西本幸雄

パ・リーグを生きた男 悲運の闘将・西本幸雄

  • 作者:西本 幸雄
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本
 

 

西本監督のことを調べようと、家にあるベースボールマガジン社の刊行物を漁っていたら、発掘!プロ野球名勝負 激闘編が出てきた。その116~117ページにある1968年10月11日の阪急対東京戦を見つけてしびれた。西本阪急はシーズン最終戦であるこの試合にサヨナラ勝ち。同率首位の南海が8分後に敗れて2連覇を果たしたのだった。サヨナラホームランを打ったのは8年目の4番矢野清。実働7年間でわずか8本塁打の男が大ブレイク。27本目が優勝決定弾となった。117ページの写真には矢野清の肩を抱き杯を挙げる、笑顔の西本監督がいた。

その写真と同じ縦じまのブレーブスのユニホームが、2020年の西本監督生誕100年の記念試合で着用される。使われたのは1964~69年。メモリアルでの着用を発案した山田久志は1969年入団だから、最初に着たのがこのモデルだ。西本阪急の初優勝そして3連覇、のちにレジェンドとなる山田久志入団と、まさに栄光のユニホーム。歴史を大切にする意味でも復刻はいい企画だと思う。

 

阪急オリックス80年史―1936-2016 (B・B MOOK 1315)

阪急オリックス80年史―1936-2016 (B・B MOOK 1315)

 

 

マリノスの背番号3も阪急の背番号50も、チームが忘れてはならない番号であり、その主は忘れられない人だ。肉体はこの世になくとも残した情熱は人々に語り継がれる。二つのユニホームを見て、あらためてそう思った。

打つ方向を決めておく~ソフトバンク内川が阪神高山にアドバイス

バッターは打つ球種や打ち返す方向を決めているものなのだろうか。ピッチャーの手を離れてホームベースに到達するまでは一瞬。瞬時に意思決定できればいいのだが、筋肉に指令が伝わるまでの時間もあるし、ある程度の心構えは必要だと思う……なんて考えたのは、内川聖一阪神高山俊にこんなアドバイスを送ったという記事(サンスポ)を見たからだ。「最初から打つ方向を決めてると、それをやることに一生懸命になるんで、余分な意識が入らない」。内川聖一はある程度打つ方向を念頭に入れているようだ。

高山いわく、「(内川さんは)甘い簡単なボールを簡単に打つじゃないですか。(自分)来た! と思ってカッーってなっちゃう(力が入っちゃう)とこもある」。すごく分かる。ほとんどの人が高山のように「来た」、いや「キタ━(゚∀゚)━!」くらいに思ってしまうのではないか。私もそう。草野球でも仕事の上でも、願っていた状況になったら喜び勇んでとりあえず目一杯バットを振る。だから当たれば飛ぶのだが、打つ方向は決めてない。結局運任せというか出たとこ勝負だったのだ。もうちょっとゴールを明確に描かないといけない。

内川聖一の思考はシンプルだ。目標を決めておけば、とりあえずそれに向かって一生懸命やるのだから余計な意識は入り込まない。なるほど。今回は最低でも進塁打にすべく右打ちだ、とか、思いきってレフトへ引っ張ろうとか決めておく。まあ、内川聖一には2171安打を放った技術があるから結果が出せるとも言えるが、無駄な力や意識を入れないようにするための、一つのアドバイスにはなるなと思いながら記事を読んだ。

内川聖一がすごいと思うのはまだ打撃フォームをすり足打法に変えようとしたりバットを改良したりしている点だ。貪欲とも言えるが、実際は2019年に不振に陥ったゆえの危機感がある。ましてやバレンティンが加入したらソフトバンクの守備位置はシャッフル必至。内川聖一のスタメンとて安泰ではない。玉突きで中村晃が一塁に来る可能性もあるのだ。

試合に出るためでもあるが、まずは結果を出す、あるいは納得のいく打撃をするためのフォーム改造あるいはバット改良のように見受けられる。内川自身は「今年は右脚に体重を乗せようと思いすぎて、ためてからの始動が遅れたり、逆に早かったりとずれることがあった」(西スポ記事)と話しているが、私は今までならもっと打球のスピードがあって外野に抜けていたものが捕球されたり、打つタイミングがコンマ何秒遅れて芯でとらえきれなかった、つまり内川の眼や感覚の衰えを疑っている。ベテラン=衰えるという固定観念があるかもしれないが、そうとでも思わないと、あの内川聖一があんなにゲッツーを食らうのは消化できない。内川は内川なりに分析し、タイミングやバットコントロールを改善しようとしている。

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最高の技術を持つ内川聖一ですらあんなに苦労するのだ。だとしたら狙った球を出たとこ勝負で打つような私が、仕事でいい結果を得られるはずがない。内川が言うようにまずは打つ方向くらいは決めておいて、しっかりとらえることに集中してみよう。まだまだ未熟だから狙い通りの球が来たら「キタ━(゚∀゚)━!」と小躍りしそうだが、そこはぐっとこらえて。まずはやるべきことに集中しよう。

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バットは鋭さを増している~ソフトバンク長谷川勇也の闘志いまだ衰えず

「年をとって、体にガタは来ているが、バットはさびるどころか、鋭さを増してきている」(スポーツ報知記事より)。長谷川勇也の自己分析には恐れ入る。自己肯定感の薄い私にはうらやましい限りだ。長谷川は年俸が2億円だったが1億になり、今回は2000万円ダウンで8000万円となった。普通なら弱気になりそうだがあくまでも強気だ。

2019年の出場試合は25試合にとどまり、フル出場よりはここ一番の代打というのが長谷川の役割だ。かつて198安打を放ち首位打者になった男の立ち位置はすっかり変わった。それでもポストシーズンでは相変わらずの勝負強さを発揮。個人的には10月13日のCSファイナル第4戦、だめ押しのタイムリーがお気に入り。西武相手なら何点とっておいてもいいのだが、この1点は西武にダメージを与えた。今宮健太の3ホームランにかすんでしまいがちだが、まさに仕事人の活躍だった。

 

真骨頂は10月9日のCSファイナル第1戦、1点ビハインドの8回、二死1、3塁でバッター長谷川。台頭著しい西武の平良の球威に差し込まれながらもしぶとくレフト前へ。この執念の同点打がなければ対西武4タテはなかったわけで、長谷川の貢献は決して低くはない。

そんな長谷川だがシーズン中、登録抹消でいったんは心が折れたという。しかしfull-count記事には「自分のバッティングがそうさせてくれなかった」「技術に守られたと実感した」と書いてあった。そう、長谷川の心のバットはまだまだ折れてはいなかったし、技術の確かさが長谷川の支えになった。そこまで自分を支える技術ってすごい。バットを振り込んだ賜物だ。思えば長谷川は2019年キャンプで20000スイングを目標に掲げた。日刊スポーツ記事によると、金星根コーチがトスを上げ、「1000スイングでミスショットは1球か2球」と言わしめた。恐るべき集中力。いくつもの殊勲打はすさまじい努力がもたらしたものだったのだ。

 

長谷川とて何の手応えもなく強気の発言をするわけがない。バットは錆び付いていない。それどころか鋭さは増している。なかなか文学的な表現だ。重量打線になかなか割って入る隙間はないが、そこに割って入ろうとする限り長谷川のバットは錆び付かない。切れ味鋭いバッティングで、2020年もパ・リーグの投手を一刀両断してほしい。

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代わりのいない人に評価を~ソフトバンク高谷裕亮の年俸3400万円は妥当なのか

もっと評価してあげてよ、と思ってしまった。高谷裕亮の年俸3400万円。現状維持だ。出場が55試合にとどまったからなのか。数字には表れない、縁の下の力持ち的な部分をもっともっと評価してあげてほしい。

日刊スポーツ記事の見出しは「ソフトバンク高谷は現状維持、盛り上げ役など評価」。グラシアルがホームランを打った後、パンチを受ける高谷のパフォーマンスはすっかり名物に。外国人選手の見送りに空港に行く高谷の写真を見たこともある。高谷はチームのよき潤滑油になっている。若手や外国人選手とのコミュニケーションも評価してもらえた、と高谷は喜んでいたがもっと第2捕手として評価してもらいたいのだ。

 

所作がいい、と解説の和田一浩に誉められていた。試合終盤、まだまだ気が抜けない展開なら若手ピッチャーは不安定だ。それも高谷はがっちり受け止めてくれる。その安定感。まだまだ甲斐拓也には出せない味だ。年齢的な落ち着きや、蓄えてきた経験がなせるわざでもある。今や中継ぎ、抑えピッチャーでも億が稼げる時代。それは中継ぎや抑えの評価が高すぎるという意味ではない。第2の捕手の評価だって、億まではいかなくとももう少し弾んであげてほしいと思う。

ソフトバンクの圧勝に終わった2019年の日本シリーズ。第4戦の9回裏、守護神・森唯斗の球を受けたのは高谷裕亮だった。そう、高谷は2019年日本シリーズの「胴上げ捕手」なのだ。正捕手としての地位を甲斐が築きつつある一方で、日本一のウイニングボールは高谷が捕った。そして高谷がシーズンに55試合も出ていることはやっぱり高谷の力がチームに必要だという何よりの証拠だと思う。

そして高谷じゃなくて甲斐で終わろうと思われるようになることが、甲斐には求められる。高谷が壁になることで、甲斐は成長するのだ。楽天はベテランキャッチャーでチームの顔の嶋基宏を起用しなくなってしまった。そして嶋は居場所を求めてヤクルトに移籍した。対照的に、ベテランキャッチャーをうまく活かしているソフトバンクは素晴らしいと思う。だからこそ、繰り返したい。打撃の方は少々目をつぶって、高谷の評価をもうちょっとだけ高めてあげてほしい、と。高谷の代わりはいないのだから。

影響を与える人、与えられる人~ソフトバンク川島慶三とバレンティン

川島慶三ソフトバンクと複数年契約(年俸7000万円)を結んだ。これが何よりうれしかった。本人もそうではないか。必要な人材だとチームが認識している、何よりの証拠に思えるからだ。

川島的にはダウンも覚悟していたが、47試合で3割6分4厘、出塁率は4割8分8厘と、役割は十二分に果たしてくれた。追い込まれてからが川島の見せ場だ。際どい球は見逃す。あるいはファウルで粘る。そのうちスリーボールになり、根負けしたピッチャーが四球を献上……もはやエンターテインメントである。この辺りの粘りはぜひ牧原らに学んでもらいたい。

左キラーの異名を持っており、川島慶三がスタメンだと左ピッチャーなのかなと分かるくらいだ。誰でもいい、という使われ方ではない。川島が左に強い。その実績から起用されるのだから素晴らしい。また、控え選手だからこそなのかもしれないが、チームメイトに声がけする役割も期待されている。だから川島慶三はベンチにいても仕事をしているのだ。ゆえの複数年契約とも言える。

そんな川島慶三の背番号が変わりそうだ。ヤクルトが契約しなかったバレンティンソフトバンクが獲得する意向だが、バレンティンはヤクルトで背番号4を付けていた。これは川島慶三の背番号なのだ。左殺しで背番号4。死を連想させることから時に敬遠される番号でありながら、川島慶三が背負うと必殺仕事人にぴったりで、個人的には気に入っていた。小兵でありながら、チームの顔が付けることが多い一桁の背番号である点もよかったのだが、バレンティンが加入したら譲るらしい。

世の中には、影響を与える人間と影響を与えられる側の人間がいる。今回はバレンティンが与える側で、川島慶三は与えられる側だ。スポニチ記事にはこんなくだりがあった。「実直な川島も快く受け入れたもようで」。ほう。実直な人なら周りに合わせることをそもそも期待されてるんだ。結局世の中、我を押し通した者勝ちなのかな、と思わなくもない(背番号4についてはバレンティンが、何がなんでもと言っているかは分からないが)。バレンティンは288発の実績はあっても、ソフトバンクにまだ何ももたらしてはいない。川島慶三は日本一を決めたサヨナラ打などいぶし銀の活躍でチームに貢献してくれた。それでも背番号は持っていかれるんだな、と複雑な思いも芽生えた。

だがかつてヤクルトで同僚だったこともあり、川島慶三バレンティンと再びチームメイトになることを望んでいるようだ。スポーツ報知記事には「集中力、野球に対する情熱はすごい。野球を一緒にやりたい気持ちはある」との川島のコメントがあった。だからこそ川島はバレンティンに背番号を譲れるのかもしれない。

川島慶三はヤクルトからトレードで加入し、背番号35を背負った。ずっと4を付けていたわけでもないから、バレンティンだしいいかな、くらいの気持ちかもしれない。背番号が変わってもやることは変わらない。左ピッチャーから打つために現れて、試合に出なくてもチームを鼓舞する。おれはいつでも川島慶三なんだ。そんな心境なのかもしれない。どんな番号を付けても川島慶三のカッコよさは変わらない。私も変わらず川島に声援を送ろうと思う。

組織の評価と個人の思いは違う~ソフトバンク福田秀平がロッテ移籍決断

FA戦線の目玉だった福田秀平がついに移籍先を決断した。ロッテ。数日前、夜中にうたた寝から起きてスマートニュースのホークスのチャンネルを見て唖然としてしまった。ロッテ、ロッテという見出しが並んでいる。ずっと福田秀平のスタメン入りを応援していたから出番を求めての移籍はやむなし、と渋々納得していたのだが、よりによってロッテとは……

 

2019年シーズン、ソフトバンクは序盤からロッテには勝てなかった。一発のあるレアードの加入が大きかったが、ロッテにしてみたらソフトバンクには何とか勝てるという雰囲気が生まれ、逆にソフトバンクはロッテに苦手意識が芽生えてしまっていなかったか。結局対ロッテは8勝17敗。優勝するためには苦手チームを作ってはいけない。せっかく西武には13勝12敗と何とか勝ち越したのに、ロッテに9も負け越したことがペナントレースに大打撃だった。そこへ福田秀平が移籍する。そしてソフトバンク戦に限って粘投する(ように見えてしまう)美馬学もロッテに行く。2020年のロッテ戦が思いやられる。

 

それにしてもなぜ福田秀平はロッテに行くのか。片っ端から記事を読んだが、鳥越コーチの存在が大きかったという。プロ2年目、19歳で父を亡くした福田秀平にとって、一番辛い時期に支えになってくれたのが鳥越コーチ。それは美談なのだがまさか鳥越コーチのロッテ入りが今このタイミングでソフトバンクに打撃を与えるとは……しかし、一番辛い時に支えてくれる人は信用できる。逆にいい時だけ近寄って来る人は最低。最悪はピンチの時に逃げる人。そんな人もいるのだから、福田秀平が鳥越コーチの存在感を大切に思って移籍するのはよいことなのだと納得しないといけないのかもしれない。

 

また、ロッテには松本球団本部長という、高校時代から福田秀平を評価してくれた人もいるそうだ。鳥越コーチと松本本部長。支えになってくれた人、評価してくれた人。その人たちから一緒にやろう、力を貸してくれと言われたら、福田秀平もその気になったということだろう。年俸だけでも、出番争いだけでもなく、人が決め手になった福田秀平の移籍先。そこにソフトバンクファンは少し救われる。

 

「客観的に自分がプロ野球選手として、どのような位置にいて、どう評価されているのかを純粋に知った上で、自分を必要としてくださる球団で来シーズン以降プレーしたかったから」(福田秀平のブログ本文を紹介したベースボールキング記事より)の中の「自分を必要としてくださる球団で」というのが実はポイントだとも思う。じゃあソフトバンクは福田秀平を評価していなかったかというと、レギュラーに定着させなかったこと(福田にしてみたら「定着できなかった」)は事実だし、年俸が3600万円というのは評価が低かったのかもしれない。だがスタメン入りは選手層の厚いソフトバンクの選手全員がぶち当たる高い壁であり、福田秀平はレギュラーを常に補完することで存在感を高めた経緯がある。組織としては頼りになる福田秀平の起用方法は決して間違っていなかったと思うし、ファンもまたスーパーサブ福田秀平の存在を頼もしく感じていた。チームは福田秀平を軽んじていたわけではない。むしろ重宝した。

 

 

 

しかし、なのだ。福田秀平にしてみれば一度しかない野球人生。プロ野球選手だからこそレギュラー獲りして4打席バッターボックスに立ちたいと思うのは全然高望みではない。移籍するからといって定位置を確約されるほど甘い世界でもない。あくまでもチャレンジ。出番を求めて移籍する福田秀平をずるいとは思わない。むしろ厳しい道を選んだようにも見える。ソフトバンクに残ったら人気と再評価と見直された年俸は残るのだから。それでも福田秀平は自分の可能性に懸けた。その思いはソフトバンクファンとして受け止めねばならないなと思う。

 

スーパーサブとして福田秀平を使い倒したソフトバンク。それに応えながらもやはりレギュラーになりたかった福田秀平。組織としての評価と個人の思いは必ずしも一致しないということが、福田秀平の移籍話からもよく分かる。だが管理職でもない一兵卒の私はソフトバンクファンでありながら、また行き先が苦杯を舐めたロッテということに舌打ちしながらも、福田秀平が新天地で自分らしさをはっきりしてほしいと心の奥では願っている。そしてその活躍はどうかソフトバンク以外の試合で、特に西武戦あたりで光り輝いてほしいと都合よく考えている。ソフトバンク戦で福田秀平が出ていたらどんな気持ちになるだろうか。福田秀平はロッテのユニホームが似合うのだろうか。福田秀平の応援歌はどうなるのだろうか。気になることはいくつもあるが時間をかけながら割りきっていこうと思う。

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プロが選ぶ走塁1位は周東~その人らしさを生かして輝く

S-PARK恒例のプロ野球100人分の1位が発表中だ。11月24日放送分は走塁部門だったが、1位はもちろん周東佑京。その脚力で侍ジャパンにも選出された、今をときめくスピードスターである。

スタジオにいた立浪和義いわく「トップスピードにのるのが早い」。何だかスポーツカーのような表現だが、「塁間を走る姿が美しい」ともコメントしており、こちらの方がソフトバンクファン的にはうれしかった。

データ的には2019年シーズンの3塁到達最速タイムが10秒55(S-PARK調べ)。野間と金子が10秒66、源田が10秒68、近本が10秒69だから、このあたりが相場なのだが周東は0.1秒速い。最高の技術同士がぶつかり合い、ギリギリのタイミングで勝負するプロ野球だから、いかに周東に優位性があるかがうかがえる。

盗塁でも周東はすごいのだが、周東の魅力を高めているのが走塁。ヒット1本で二塁から生還する。高校野球かよとツッコミたくなるがそんなエキサイティングな走塁を見せてくれる。そしてチームに貢献してくれる。しかも試合の勝敗を左右する、終盤の大事な局面で。

機動破壊 健大高崎 勝つための走塁・盗塁93の秘策

機動破壊 健大高崎 勝つための走塁・盗塁93の秘策

 

周東自身、一番の走塁に選んだのが7月21日の楽天戦。1点リードの9回表、一塁から二盗。代走で登場したら100%走ってくるとバッテリーが警戒する中で成功するのだから、まずそこが素晴らしい。そしてバッター甲斐の浅いレフト前ヒットで二塁から一気に本塁を陥れた。レフトが捕球する時点でまだ三塁に到達していない。それでもセーフになるのだからやはり速さが尋常じゃない。

とまあ、番組の組み立ては至極その通りなのだが、周東の魅力はプロ野球の常識を実力で覆している点だと思う。楽天戦のシーンでは普通突っ込まない(1点リードしていることもある)。侍ジャパンで話題になった源田のスクイズでは捕球したピッチャーがタッチに行くも、周東が速すぎてタッチできなかった。周東の登場で野球の走塁のレベルがまた一つ上がったのは間違いない。

鈴木尚広の走塁バイブル

鈴木尚広の走塁バイブル

 

数字に表れにくいが周東は足が速いから守備でも貢献している。外野フェンスに行く前に何とか捕ろうという姿勢がうかがえる。単打で終わらすか、二塁打にするかはまったく違う。クッションボールの手際よい処理も外野手の見せ場だが、周東にはそもそもフェンスに届かせないというアグレッシブな守備を高めてもらいたい。そしてまた常識を覆してほしい。あの当たりで二塁打三塁打にならないのかよ、と。

基本と実践で差がつく! 外野手 最強バイブル (コツがわかる本!)

基本と実践で差がつく! 外野手 最強バイブル (コツがわかる本!)

 

周東が支配下登録されたのは2019年開幕直前。プロ入りはドラフト育成2位であり、学生時代から注目されていたわけでもない。それでも今光り輝いているのは一芸に秀でているからだ。突き抜ければこれだけ名前が売れ、評価される。打つ、守る、走るが野手に求められる三拍子だが、まず脚力をアピールして光の当たるところに行った。そうした周東も、そうさせたソフトバンクも素晴らしいと思う。甲斐の強肩、千賀の速球&お化けフォーク、周東の俊足。育成出身でも武器を磨けばトップ選手にのしあがれる。周東の活躍は育成出身選手にとっても希望であることだろう。おまえの代わりなんていくらでもいる、なんて悲しい言葉は言わせたくないし聞きたくもない。誰にだってその人だからこそできる仕事は一つくらいあるはずだ。その人らしさを生かして光り輝く。周東の活躍は個性を生かして活躍する素晴らしさをあらためて教えてくれている。

 

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やらされでは身に付かない~巨人鍬原のサイドスロー転向に斎藤雅樹が金言

やらされでは身に付かない。本当にその通りだと思う。巨人の鍬原がサイドスロー転向という記事(スポーツ報知【巨人】斎藤雅樹氏、鍬原のサイド転向に太鼓判「左の中川、右の鍬原になれる」)を見てつくづく思った。

斎藤雅樹と言えばサイドスロー転向で大成功した、巨人のエースだ。11試合連続完投勝利はプロ野球記録。2019年は完投数の少なさなどがネックとなり沢村賞が該当なしとなったが、候補の山口俊は完投ゼロ、有原航平は1だから、斎藤雅樹の記録はもはや破られそうにない。投手分業制がすっかり定着したという背景もあるが、先発は投げきってこそという観念はもうないのかもしれない。ともかく、斎藤雅樹サイドスローを自分の武器にしたことで殿堂入りまで果たした。

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鍬原は巨人の2017年ドラフト1位。しかし2シーズンでこれといった成績は残せなかった。記事に書いてあったが、サイドスロー転向は原監督のアイデアだという。鍬原は中学まで横手投げだったというから、あながち無理な指示でもない。そして思うように結果が出せていない鍬原に対して、何かしら新しいことをしてみたら、という親心があったのかもしれない。

斎藤雅樹もまた監督(藤田元司監督)の助言によりサイドスローに転向したと言われている。サイドスローは腰の回転が横だから、それに適しているかどうかも重要だ。斎藤の場合はドはまりしたのだが、腰の回転以上に大切な要素がある。それは自分の意思で変わろうとしているのか、である。「フォームを変えるのは勇気がいります。やらされているといった思いがあるとなかなか身につきません」と斎藤雅樹は言う。そう、変わるか変わらないかは結局、本人の気持ち一つで結果が異なるのだ。

「鍬原自身が新しいものを見つけようと積極的に取り組み、コーチと相談しながらやっていけばいいのではないでしょうか」。スポーツ報知の記事で斎藤雅樹はそう続けた。誰が助言しようとも、結局は鍬原自身が変わろうとするかが大事であり、積極的にならなければならない。その上で周りにアドバイスを求める。そうやっていけばいいのだと斎藤雅樹は鍬原にエールを送っている。

なお、スポーツ報知には関連記事があった(見出しは、球界の主なサイドスロー転向投手…巨人・角三男ら多彩な顔ぶれ)。この中では皆川睦雄に目が止まった。皆川については野村克也の著書に紹介があり、過去にブログに書いたことがある(下記参照)。

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やはり成長するかしないかという局面では、本人の気持ち、意思が重要なのだ。私自身、これは強く意識しないといけない。鍬原が変われるか、挑戦は始まったばかりだが、変わろうとする気持ちは伝わってくる。自分も鍬原にあやかって、変わるためにできることは、できる限りやっていこうと思う。

松坂大輔西武復帰の見出しに感じた違和感~大幅減俸も覚悟、なんて当たり前

松坂大輔が古巣・西武に復帰する方向だという。それもいいかな、松坂が引退するよりはいいかなと思ったのだが何か心にモヤモヤが残る。その理由が分かった。見出しだ。私が見た日刊スポーツ記事は「松坂大輔、14年ぶり西武復帰へ 大幅減俸も覚悟」。見出しは間違ってなどいない。私が違和感を感じたのは「大幅減俸も覚悟」だ。

プロ野球 復活の男たち (TJMOOK)

プロ野球 復活の男たち (TJMOOK)

 

 

これは私が松坂大輔を応援したい以前に、ソフトバンクファンであることに起因する。ご存知のように松坂大輔ソフトバンク入団をもって日本球界に復帰した。しかしまったく結果を残せなかった。結果論と分かってはいるが、年俸4億円の3年契約だからしめて12億円。もちろん松坂大輔というネームバリューも、過去の実績も加味されての年俸だから、ソフトバンク球団が納得していれば周りがとやかく言うものでもないかもしれない。しかし何かを言いたくなるというのがファン心理。期待の裏返しでもあり、私は松坂大輔にはソフトバンクでも年俸に見合う活躍をしてほしかった。戦力になってほしかった。けががあったから仕方なかったのだけれども。

そんなわけで、記事を読んで、中日ファンの気持ちになってしまった。引退のピンチに手を差し伸べたことに対しては、松坂はカムバック賞をもって報いたとは言える。しかし8000万円まで上げた年俸に対してこれまたけがの影響とはいえたったの2試合登板。残るにしても移籍するにしても、これで松坂が大幅減俸しなかったら他の選手はどう思うだろうか。大幅減俸も覚悟、なんて当たり前だ。そう思ったからこそ私は日刊スポーツの見出しに違和感を持ったのだった。ここは「中日ファンには感謝」という見出し、あるいはそういう趣旨のコメントがほしかった。中日ファンには同情する。

契約社会だからビッグネームに大金が投じられるのは当たり前だ。しかし大金を投じる裏ではその10分の1にも満たない年俸の選手たちが戦力外通告を受けている。もちろんその選手が力を発揮できなかったから戦力外になってしまうのだけれど、億単位の年俸の選手が極端に出場できなかった場合は何割か返上という流れはできないだろうか? 言ってみれば逆出来高的な。その原資があれば戦力外ボーダーラインの選手にもあと1シーズンの猶予が生まれる……というのは甘やかしだろうか。

俺たちの「戦力外通告」

俺たちの「戦力外通告」

 

 

別にお金の話ばかりしたいわけではないが、松坂大輔の西武復帰が既定路線ならば次は彼の年俸がどうなるか興味深い。グッズの売上、若手への影響など有形無形の指標から算出される松坂大輔の年俸とはいくらなのだろうか。それがいくらだったとしても、松坂大輔にはぜひ年俸以上の活躍をしてファンを納得させてもらいたい。

ライバルに評価された平石洋介~ソフトバンクが1軍打撃コーチに招聘

2019年シーズンに楽天を率いた平石洋介がソフトバンク1軍打撃コーチに招聘された(full-count記事、ソフトバンク楽天前監督の平石氏の招聘を発表 1軍打撃兼野手総合コーチに就任 より)。日本シリーズ3連覇を圧倒的な強さで成し遂げたソフトバンク。コーチ人事の面でも抜かりがない。この辺りが強さの秘訣である。

 

この人事を見る時、捨てる神あれば拾う神あり、というフレーズが頭に浮かぶ。捨てるなんて言葉は乱暴だが、実際、楽天は前年最下位から3位に浮上させた平石洋介を「切った」。三木肇を1軍監督に据えたのだが、三木とて1軍監督としては未知数だ。これって結局、石井一久GMがヤクルト時代の後輩の三木肇に監督をやらせようということじゃないのか?と勘ぐりたくもなる。社会人は結果がすべてであるのと同時に人脈がものを言う面もある、その典型的な例に見える。

ゆるキャラのすすめ。

ゆるキャラのすすめ。

 

 

もっとも、三木肇はコーチ経験が豊富で、現役時代は野村克也監督の指導も受け、山田哲人を育てた実績もあるからただの好き嫌いで選ばれた訳でもあるまい。だが繰り返すが平石洋介は決して厚みがあるとは言えない戦力をやりくりして西武やソフトバンクとつばぜり合いを演じた。皮肉にも楽天はそれを評価せず、苦しめられたソフトバンクが平石を評価した。

これでプロも変わった 守備・走塁の技術と極意

これでプロも変わった 守備・走塁の技術と極意

 

 

ここ最近の野球はだいぶスマートになり、因縁の対決といった煽り方は少ない印象だ。ゆえに2020年シーズンのソフトバンク楽天戦は見もの。平石洋介が重厚な戦力を使って、自分を切った楽天にリベンジを挑むのだ。楽天を叩くのに平石の自尊心と野球脳を使おうというソフトバンクが一番したたかではある。しかし平石にしてみたらこんなにうれしい評価はあるまい。自分なりに結果を出したのにはしごを外された。そこへ手を差し伸べたのがライバル球団なのだ。コーチ就任受諾を即答しなかったのは今まで支えてくれた楽天ファンへの気配りだったのかもしれない。PL学園時代からずっとユニフォームを着ていたわけで、監督退任を機に一度充電する選択肢もあったが、必要とされる場があるならば勝負してみたいと思うのが野球人。平石のソフトバンク入りは至極まっとうな選択に見える。

 

レギュラーシーズンは終盤に失速したソフトバンクだが、ポストシーズンは打撃絶好調。立花打撃コーチは留任だから平石洋介は育成や作戦面に期待されているのかもしれない。2019年シーズンはスクイズやら強攻策やらダブルスチールやら、ソフトバンク楽天に苦杯をなめた。その頭脳が仲間入りする。しかも古巣への対抗心を持って(表面的には見せないかもしれないが)。個人的には「松坂世代」を読んでから平石のことは気になっており、ソフトバンクファンの私は打撃コーチ就任を本当にうれしく思う。平石の加入はまさに鬼に金棒。慢心してはいけないが、平石がソフトバンクの戦力を使ってどんな野球を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。2020年のソフトバンク楽天は白熱必至だ。

松坂世代 (河出文庫)

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心揺さぶられた井上尚弥VSノニト・ドネアの大熱戦

ここ数日、「ドネア」という単語が頭から離れない。ノニト・ドネア。井上尚弥と11月7日に死闘を演じた、フィリピンの名ボクサーである。予備知識なし、たまたまテレビで試合を見たのだが、非常に学ぶことが多い試合だった。勝った井上尚弥も、負けたドネアも素晴らしかった。以下、好勝負と感じた理由を思いつくままに書いてみた。

 

怪物

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1.ドネアのプロ根性

まずはドネアの闘志。特に最終12ラウンドの最終盤、試合も残り10秒切った頃、ドネアはフガッともンガッとも聞こえるうなり声を上げながら最後の力を振り絞って井上尚弥にパンチを繰り出した。直前の11ラウンドにはダウンを喫しているし、判定になればもはや勝ち目はない。それでも一発当たれば奇跡の逆転打になり得る…そんな意図は素人目にも分かった。だが、ここまで執念を見せられる人って実は少ないのではないか。5階級制覇までした、キャリア十分のドネア。経験があるからこそ諦めてしまうことも十分あり得る。だが、ドネアは違った。最後の最後まで勝つ可能性を追求した。これぞプロフェッショナル。

 

 

2.クレバーだった井上尚弥

続いて、井上尚弥の冷静さ。人生初のカット(とボクシング業界では言うらしい)と記事で読んだが、2ラウンドに有効打を食らい右まぶたから出血した。その影響でドネアが二重に見えていたという。さらに9ラウンドには右ストレートを浴びてふらつくシーンも。すべての試合を追っているわけではないのだが、井上尚弥のピンチらしいピンチは初めて見た。そしてクリンチをして逃れる井上尚弥の姿も初めて見た。そう、ここはなりふり構わず逃げる場面である。ファイティングポーズを取るだけが戦法ではない。また、最終ラウンドは11ラウンドにダウンを奪っているのだから一気呵成に攻めたててダウンを奪ってもらいたい…というのがファン心理なのだが、井上尚弥は必要以上に深追いはしなかった。ドネアが最後の力を振り絞り一発逆転のカウンターを狙っているのは確かに見え見えだが、日本での試合であり、大勢のファンが見守っているのだから井上尚弥が熱くならないはずはない。それでも井上尚弥は無理にドネアを沈めようとはしなかった。心は熱く、頭は冷静。井上尚弥は本当にクレバーだなと思った。

 

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3.井上尚弥の卓越した試合運び

そして井上尚弥は試合運びもうまかった。井上尚弥が強打を浴びてふらついた9ラウンドと、ドネアがダウンを喫した11ラウンドがフォーカスされがちだが、個人的には10ラウンドを井上尚弥が制したことが勝敗に大きく影響したと見た。9ラウンドを終えてほぼ互角、ひょっとしたらドネアが僅差で井上よりもよい評価を得ているのではないかと思っていただけに、残り3ラウンドでよい印象を与えた方が勝つと見ていた。その初回である10ラウンド、井上尚弥はドネアをとらえて場内を沸かせた。絶対に取らなければならない3ラウンドの評価の一つをまず得た。ここで心理的に優位に立てたと思う。まず貯金を作るというのはいかにも日本人的な発想かもしれないが、勝つために貯められるポイントは早めに取っておくに限る。この10ラウンドがあったからこそ11ラウンド、思い切った攻めができたのではないか。そして11ラウンドがあったからこそ12ラウンドは俯瞰的に試合を見て動くことができたのではないか。ボクシングはついつい打った打たれたという、解りやすい構図を楽しんでしまいがちだが、ラウンドごとのつながりを味わう楽しさもあるんだなとよく分かった。

 

 

4.明暗を分けた勝負のあや

ドネアは試合後、9ラウンドに攻めきれなかったことを最大の過ちと振り返った(スポーツ報知記事、ドネア「9回に最大の間違いを犯した」「また戦おう」…井上尚弥とのWBSS決勝から一夜明け独白 より)。ドネアは井上尚弥が反撃してきたところを狙って仕留めようと考えていたのだが、思った以上に井上が踏み込んでこなかったことから攻め時を失ってしまったのだった。これもまた勝負のあや。ボクシングを見る時はパワーやスピードを楽しんでいたのだが、これからはボクサーがどんなことを考えているのか、想像しながら試合を見ればさらにボクシングを楽しめるような気がしている。

 

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5.まだ進化する井上尚弥

そして何よりこの試合に価値があると思ったのは、井上尚弥という素晴らしい才能を持った選手でもなお試合で成長するんだと分かったからだ。この試合までに18戦16KO。常にファンの期待を裏切らなかった選手がキャリアで初めて本格的にまぶたを切り、鼻血を流し、あわやダウンという局面まで追い込まれた。ドネアが二重に見えるからいつものように瞬殺もできない。ついに井上尚弥も負ける時が来るのかと覚悟したファンもいたことだろう。私もちょっと頭をよぎった。それくらいドネアのファイトは素晴らしかった。しかし11ラウンド、ついに井上尚弥のパンチがドネアのボディーにさく裂。しんどい試合をいかにして勝つか。井上尚弥はまさに身をもって学んだことだろう。そしてファンは井上尚弥に感情移入することで、ああ、自分も苦しい局面を耐えることでいつか勝機が生まれるんじゃないか、自分も頑張ろう、という気になったに違いない。

 

 

6.敗者のいない好勝負

というわけで普段野球ばかり見てきた私が井上尚弥とドネアの好勝負に触発されて感想など書いているのだが、素人でさえこんなに楽しんだのだからバリバリの、そして目の肥えたボクシングファンはその何倍も楽しめたことだろう。日刊スポーツ記事によれば、勝った井上尚弥には10社以上、総額5億円ものスポンサー契約が舞い込んだという(井上尚弥5億円オファー スポンサー10社超名乗り より)。面白いのは、ドネアはドネアで日本でファンを拡大したようなのだ。「かなりの接戦だったと思う。名勝負だった。そして、ノニト・ドネアも多大なリスペクトを勝ち得ることができた。日本で大きなレガシーを残すことができた。ノニトは親日家としても有名だ。日本で人気がある。この日はイノウエに勝てなかったが、敗戦という結果に関わらず、さらに日本でファンを拡大したのではないか」。THE ANSWERの記事にはドネア側のプロモーター、リチャード・シェーファー氏の話が紹介されていた。あんなに熱い試合をしたのだから、ファン獲得もうなずける。そういう意味ではこの試合に敗者はいないのかもしれない。

 

私事だが1カ月、のっぴきならない事情でブログの更新ができなかった。過去3年分の記事の蓄積でしばらくは一定のアクセスも得られていたが、さすがに読者は減った。そりゃそうだろう。だが嘆いても過去は戻らない。であれば井上尚弥のように大ピンチの時はクリンチでも何でもして当座をしのぐしかないし、できるだけ冷静にゴールから逆算して事を運ぶしかない。理想は毎日ブログを更新することだが、義務的にやるものでもないし、心を揺さぶられるものがあったら書いていこうと思う。というわけでまた機会があればぜひこの黒柴スポーツ新聞にお付き合いいただければと思います。今後とも応援よろしくお願いします。

活躍して居場所をつくる~ソフトバンク石川と福田がCS敗退の危機救う

負ければ終わりのCS2戦目、お立ち台に立ったのは石川柊太と福田秀平だった。これがソフトバンクのなせるわざだ。もちろん3打点のデスパイネ、同点ホームランやタイムリーの柳田悠岐とてヒーローインタビューを受けてもよいところだが、やはり勝利のポイントは石川と福田。ソフトバンクファンも納得だろう。

 

石川にしてみたら9月に復帰したばかり。2019シーズンは若手が台頭したから、離脱している間に自分の居場所がなくなったことになる。そんな中で、崖っぷちの試合での2イニング無失点の好投。ソフトバンク中継ぎ陣は少しだけ余裕が生まれた気がする。何よりCSファーストステージでは楽天打線が好調なだけに、石川が無失点(うち1イニングは三者凡退)に封じたことで流れが変わった。そこはラジオ解説の岸川勝也もきょうのヒーローに石川の名前を挙げて評価していた。短期決戦は特に流れは重要だ。

 

そして福田秀平。交流戦の満塁ホームランと言い、この日の勝ち越しホームランと言い、なかなかの勝負強さだ。この日は不動のスタメン松田宣浩が美馬との相性の悪さがあったとはいえ下げられてグラシアルが三塁に回り、福田が外野に起用された。そんなこともあり福田には結果を出すことが求められていた。そこで結果を出すのだから福田は素晴らしい。

 

福田はヒーローインタビューでホームラン後1周する場所を「ベンチ」と言い間違え、さらに「グラウンド1周」と訂正していたがラジオ中継では岸川勝也に「ダイヤモンドですよ」と突っ込まれていた。「ベンチが慣れているので」という言い訳は微笑ましかったが、いやいや、福田はベンチが似合うわけじゃない。選手層が厚いことや、守備固めや代打代走要員としての能力の高さからベンチスタートが多いだけ。ソフトバンクになくてはならない選手だ。あらためてFA市場で注目されるのは皮肉なものだが、ひとまずファイナルステージ進出に集中してもらいたい。

 

というわけでファイナルステージ進出争いに踏みとどまったソフトバンク。石川、福田含め全員野球で楽天を倒し西武への挑戦権を勝ち取ってもらいたい。

弱みを受け入れる~荒木雅博は2000安打時の通算本塁打が最少33本

片付けをしようと紙袋を漁ったら、熊本日日新聞が出てきた。知人にいただいたものだ。日付は2017年6月4日。前日に熊本県出身の荒木雅博が2000安打を達成しており、それを報じている新聞なのだった。

懐かしがりながらめくってみると、あるくだりに目が止まった。
「2千安打達成時に通算33本塁打は史上最少となる」
いわゆる一問一答記事の中だから、会見でそういう質問、問いかけがあったのだろう。これに対して荒木雅博はどう答えただろうか。

「33本しか打てない選手だったから徹底して小技もやってきたし、右打ちもしてきた。33本のおかげで2千本打てた」
ちょっと感動する。数に差はあれど1軍のプロ野球選手なら打つのは不可能でないホームランがなかなか出ない。それはコンプレックスになりかねなかった、いや、コンプレックスそのものだっただろう。荒木雅博がすごいのはそれを否定しなかったことだ。弱みを受け入れるのは、本当に弱い人間にはできないことだ。

望んでも飛ばす力が付かないならどうするか。荒木雅博は先ほどの答えのように小技を磨き通算犠打は284。これはプロ野球歴代11位だ(2019シーズン終了時)。右打ちも鍛えたことで安打数も伸びたことだろう。そうやってなくてはならない選手になった。だからこそ2000安打が打てたのだ。

なりたい自分を思い描くのは成長につながるから、悪いことではない。しかし自分に足りないものや弱点を認めることも成長につながるのだな、とこの一問一答記事を見て学んだ。そして新聞を読む意味はこういう体験にある、と思っている。

というわけでこのブログを書き始めたから片付けは一向に進んでいない。片付けが苦手という弱点を認めることから、整理整頓を始めよう……

強行策失敗は危機を招く~ソフトバンクCSファイナル進出に黄信号

選手にフォーカスすることが多かったが、きょうは戦術について語りたい。ズバリ3回裏ノーアウト一塁からの強行策は失敗だった。2019年クライマックスシリーズファーストステージ、ソフトバンク楽天での話。ソフトバンク明石健志がヒットで出塁するも、今宮健太は送らずレフトライナーに倒れた。

今宮健太を責めるつもりはない。センターライナーは鋭い当たりだった。ズバリ批判の矛先は工藤公康監督。ここは送ってチャンスを拡大させるべきだった。なぜなら短期決戦だから、勝たねばならないからに他ならない。

今宮健太は初回に同点ホームランを放っており、調子は悪くないのかもしれない。打たせるのは確かに一つの手であった。だが、繰り返すが短期決戦。結果がすべてなのだ。ファンが試合後あれこれ語るのはズバリ結果論で、空虚なものかもしれない。しかし送りバントをさせてほしかったのには理由がある。

まずは千賀滉大の不安定さ。いきなり初回浅村に先制ホームランを浴び、3回オコエにも打たれた。内川聖一が2回に勝ち越しツーランを放っていたからまだ勝っていたが、1点差になった後は四球を連発し満塁になった。何とか後続は断ったが大量失点の危機だった。

ソフトバンクが手堅く送りバントしなかったのはそのピンチの裏なのだ。フラフラのエースを一刻も早く援護するのが打線の責務であり、作戦ではなかろうか? あれだけ貧打に苦しんだのなら、少ないチャンスを有効に活用しないと勝てない。そう、二つ目の理由はこれ。後半戦打てずに苦しんだのなら、まずは得点圏にランナーを送り、得点の可能性を高めるのが合理的だと思うのだが。今宮は犠打の名手でもある。

結局この3回、ソフトバンクは今宮がランナーを進められず、グラシアルは内野ゴロでゲッツーは何とか免れた。続く柳田悠岐がヒットを放ってグラシアルが一塁から三塁まで進みチャンスは拡大したが、デスパイネが倒れて追加点は奪えなかった。ランナーを二塁に進めた上で、グラシアル、柳田悠岐デスパイネの中から得点を期待する。それでよかったのではないか。そうしなかったのはアウトを与えることを惜しんだからなのか。中軸が打てないから、あわよくばノーアウト一塁二塁さらにはノーアウト一塁三塁を望んだのか。だとすれば中軸はあまり期待されていないのかもしれない。そう勘繰ってしまうほど、作戦の意図を汲み取れずにいる。

作戦の意図が分からない試合を見るのはなかなかしんどい。試合途中、立花コーチを中心に円陣が組まれ、中では松田宣浩も手を叩いて鼓舞していたが、結局得点は前半だけ。工藤監督含め、ファイティングポーズを見た気がしないのはなぜだろうか。9回に送り込んだのは高橋純平。逆転するためには1点差を守りきらねばならない。高橋純平も勝ちパターンの一角だが、ここはチームを鼓舞する意図も込めて森唯斗投入が見たかった。

 

考えたくもないが、2戦目負けたらソフトバンクの2019年は終わる。たった一つの送りバントだが、もしソフトバンクがCSファイナルステージ進出を逃したら、分岐点はこの回だと私は見る。そう、結果論だけれども。勢いのある時はイケイケでいい。しかし盛り下がっている時こそ、少ない可能性は拡大すべきではなかろうか? もがくエース、バットが湿る中軸に少しでも結果が出るよう整えるのがベンチの役割のはずだ。千賀の4被弾ばかりクローズアップされがちだが、この強行策失敗は看過できない。

ソフトバンクファンが「タラレバ」を言うためには何としても2戦目を勝たねばならない。パ・リーグは過去、ファーストステージ初戦に勝った15チーム中、13チームがファイナルステージに進んでいるという。圧倒的に不利なデータはあるが、今の戦力とチーム状態で勝つためには、ということを考えて戦ってもらいたい。

福田秀平のFA宣言をソフトバンクファンは受け入れられるのか

ソフトバンクの福田秀平がFA権の行使を検討しているという。具体的には中日やヤクルトが興味を示しているとの記事もあった。福田は代走や守備固め、代打で活躍しているイメージが強いが、実際、規定打席に達したシーズンはない。他球団ならレギュラーとも言われる福田はどのような判断を下すのか興味深い。

 

もちろん私はソフトバンクファンだから福田秀平にはこのままチームにとどまり大活躍してもらいたい。打撃も勝負強く、福田が巨人戦で森福から放った満塁ホームランは、個人的には2019年ソフトバンクの最も心に残る一発だった。何よりけが人の穴を颯爽と埋める福田の姿に感動していた。

 

だが、福田秀平とてプロ野球選手。実際、プロ野球選手ならスタメンで頭から試合に出たいと発言もしている。そうだ。試合後半からだと打席も限られる。打つに限らず、守って、走って、と丸々1試合活躍したいと福田は考えているのだろう。

 

となると、福田秀平がFA宣言したらファンはどう受け止めるだろう。もちろん引き留めの声は多いはずだ。これからもソフトバンクになくてはならない存在だから。福田秀平はいま30歳で、引退するまであと何年やるか分からないが、残りすべてソフトバンクにいてもらいたいと私は思う。

 

そのためにはしっかり球団に評価してもらいたい。ズバリ今の推定年俸3500万円は低すぎる。この評価のまま「これからもよろしく」というのは少々虫が良すぎないか。査定についてはド素人ながら、倍プラスの8000万円の4年契約でどうだろう。レギュラー確約ができないなら出場試合数に応じた出来高も付けてあげてほしい。

 

FA宣言するのは決して今のチームが嫌な訳ではあるまい。福田秀平の場合はお金というより出場機会がほしいのだと思う。理想はソフトバンクの中でレギュラーを奪うことだが、柳田悠岐中村晃、グラシアルの牙城を崩すのは容易ではない。ライバルには上林や周東らがいる。そんな中でぜひ使いたいという球団からオファーがきたら、腕試ししたくなるのは当然だ。だから私は福田秀平には残留してほしいけれども、FA宣言すること自体は納得できる。

 

じゃあ移籍も容認するかと言われたら心情的には無理だ。やはり福田秀平はソフトバンクのユニホームが一番似合うと思っている。どうしても移籍するならパ・リーグは御免だ。セ・リーグにしてもらいたい。

 

必要とされるポジションで活躍できるなら、プロ野球選手に限らず、こんなにうれしいことはあるまい。今ソフトバンクにいても困った時に顔が浮かぶ福田の存在価値は素晴らしいと思う。残留なら今後環境が変わるリスクは低いが、ローリスクローリターン。起用方法はさほど変わらない気がする。一か八か他球団に移籍してもうひと勝負してみるのも一つの生き方だ。FA宣言してあらためて自分の評価を見つめるのも意味がある。誰も福田が年俸を上げるためにFA宣言するとは思うまい。だからこそ気になる。福田秀平がFA宣言したらソフトバンクファンはどんな反応をするのか……

私は残留◎、セ・リーグ移籍△、パ・リーグ移籍×だ。残ってほしいのはやまやまだが、福田秀平が輝くならば彼の決断を何とか受け入れよう。そう考えている。

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