黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

新天地で結果を出す~元ソフトバンクの山田大樹、ヤクルトで2年ぶり勝利&4連勝

ソフトバンクファンだが、密かに気になっている。ヤクルトスワローズ山田大樹。2017年秋、ソフトバンクから無償トレードされた。2019年シーズンは2年ぶりの勝利を飾り、それを含んで4連勝と結果を出している。

 

無償トレードというのは、ソフトバンク山田大樹を構想外にしたところにヤクルトが手を差しのべたから。差しのべた、というと救う感じがするが、実際、ヤクルトが手を挙げなければ山田はプロ野球選手ではなくなるところだった。チームは変わるけれど、山田にとってはありがたい話だったに違いない。

 

ヤクルトはかつての野村再生工場が有名だが、その後もちょこちょこ選手を獲得して一花咲かせようとすることでチームを強くしようとしている。自前の選手を徹底的に鍛え、補強が少ない広島とは対照的である。

 

私は異動が多かっただけに、トレードや移籍した選手についつい目がいく。新天地でも頑張ってほしいなあと、ついつい肩入れしてこのブログでも書いてきた。思うように生きられない人たちが自分を重ねられるのか、そういう記事の視聴率は悪くない。共感もしてもらえるようで、この森岡良介記事はわが黒柴スポーツ新聞で唯一の3ケタシェア。森岡もまたヤクルトに拾われた選手だ。

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山田大樹は左投げだし、先発ができるから面白い存在だと思っていたが、登板機会がなかなかないままソフトバンクを去った。気になる選手がいなくなるのはファンとしては寂しいが、さらに寂しいのはそのままいなくなってしまうことだ。だから山田がヤクルトに行くことが決まった時はよかったなあと思ったことだった。

 

同じプロ野球チームとはいえ勝手が違うだろうし、新しい環境で結果を出すのは生え抜き以上に大変だ。山田は初年度は勝てなかった。しかし2年目の今年はじわじわと勝ち星を積み重ねている。豪速球があるわけでもない。代名詞のウイニングショットがあるわけでもない。それでも勝てるのは丁寧なピッチングだからだろう。最近は軒並み150キロを投げる人ばかりだが、こういう勝ち方も味がある。

 

無償トレードで獲得した選手が2年がかりとはいえ4勝してくれたことは、ヤクルトの編成的にもまずまずというところではないか。今年は広島の下水流と巨人の和田恋が楽天に移籍した。彼らは元いたチームではなかなかレギュラーの壁を崩せなかった。壁を崩してこそプロ野球選手なのかもしれないが、何かのきっかけでブレイクする選手はもっともっといるのではないか。日本ハムに移籍した宇佐美なども面白い存在になりそうだ。

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山田は残りのシーズンで何勝できるだろうか。外様選手は生え抜きよりも厳しい立場だ。だが山田はそもそも育成出身。はい上がってきた男だ。まだ30歳。結果を出すことで1年でも長くマウンドに立ち続けてもらいたい。

お灸の据え方はよく考えた上で~原監督、首位攻防戦で小林誠司を外す

首位攻防戦でマスクをかぶったのは小林誠司ではなく、岸田だった。正確に言えば小林は2戦目の途中で交代。3戦目のスタメンマスクは岸田だった。

これをどうとらえるか。原辰徳監督は意固地になっているように思えた。というのも2戦目の途中交代は、リードを許す展開になったことへの戒め、平たく言えば懲罰的な交代に見えた。だから解説の川相昌弘は「キャッチャーを代えても、打たれるものは打たれる」と小林をかばった(ように聞こえた)。川相昌弘は、ベテランの炭谷がけがで離脱していることから、今が踏ん張り時だと小林を激励していた。

小林誠司Photo Book

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その2戦目は皮肉にも、岸田の捕逸が決勝点となった。坂本勇人の起死回生の同点タイムリーの後だっただけに、痛すぎるミス。しかし岸田は初出場であり、鈴木康友Twitterで「荷が重すぎる」と岸田をかばった。泣き顔の絵文字を使っていた。おれも1軍に上がったころ、ボテボテのショートゴロをトンネルしたよと。雰囲気。緊張感。そしてプレッシャー。岸田には今まで感じたことがないものばかりだっただろう。

さすがに原監督も、負けの遠因は自分で作っただけに、バッテリーミスを責めはしなかった。小林の交代については小林が悪い訳じゃなく、悪い流れだったからそれを変えたかったからだと説明。そして負ければ0.5ゲーム差に迫られる大切な3戦目には起用しなかった。代役の岸田も踏ん張ったが結局、3戦目もDeNAに競り負けた。

こういうことをしているから、小林誠司が伸び悩んでしまうように見える。原監督の性格からして、小林すまん、やっぱおまえに託す!とは言えないのだろう。もちろん、昨日の今日でやり返せ、そうじゃないと負け犬になってしまうぞという意味で岸田を起用する意味もなくはない。しかしまだひとやまもふたやまもあるとはいえ、大事な首位攻防で選手を疑心暗鬼にするような起用をしていては、チームのムードが盛り下がりはしないか。

結果が出ない時こそ前向きにリーダー原辰徳84の言葉

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大胆な起用は当たればハイリターンだが、レギュラー選手の気持ちも大切だ。プロ野球だから懲罰交代も否定はしない。しかし3戦目は「切り替えてやってこい」と小林誠司スタメンでよかったのではないか。ペナントレースの鄒せいを占うこの首位攻防戦の経験は小林誠司にも必要だ。精神的な荒療治よりも、勝つために何が必要なのかをグラウンドで経験させる。レギュラー選手のお灸の据え方はよくよく考えてやった方がいい。

嫌いじゃない場所を増やす~ソフトバンク上林、札幌での打率は3割5分

ソフトバンク日本ハムとの首位攻防ラウンド2戦目で鮮やかな速攻。初回に4点を取ってその後もリードを保ち2連勝とした。これで日本ハムとのゲーム差は3.5に。見事に押し返した。

 

その立役者の1人が上林誠知。初回の2点タイムリーなど3安打を放った。打率はようやく2割に乗った。解説の森本稀哲が言っていた。上林君は打つ球を選べばすぐ3割打てる、と。打ちにくい球に手を出して結果を出せずにいるということだ。

 

そんな上林の記事の見出しに目が止まった。「ソフトバンク上林『嫌いじゃない』得意札幌で3安打」(日刊スポーツ)だ。そういえば上林は札幌ドームでランニングホームランも打っている。なんと今季8試合で31打数11安打、打率3割5分5厘だという。繰り返すが上林はようやく打率が2割に乗ったくらいの調子なのだ。

 

上林がなぜ札幌ドームで打てるのかは分からないがソフトバンクにはほかにも札幌ドームで結果を出している人がいる。明石健志だ。札幌ではないけれど旭川出身ということで「地元」ではいいところを見せたいものだが、6月28日の試合では3安打でチームの勝利に貢献。そしてきょう8月3日の試合でも先制タイムリーに続いて2点目を奪うホームへの果敢な走りを見せた。

 

また、今シーズン、札幌で話題になったのは高橋純平。プロ初勝利から2日連続で2勝目をマークしたのは球団史上、日本選手初の快挙だった。初勝利まで苦労した高橋純平にとって札幌は縁起のいい場所だ。

 

札幌はライバル日本ハムの本拠地。いずれ自前の新球場ができればそうではなくなるが、ソフトバンクの選手にとって北海道のスタジアムはアウェーである。やはり声援も多いしホーム球場での試合はやりやすいもの。その一方、ホーム以外で「嫌いじゃない」場所を作っておくのはいいことだ。ここなら何となくうまくいく。そんな場所があればいくらか気持ちにゆとりが生まれるからだ。

 

本当に実力があれば場所を問わず結果が出せる。だけれどもそんな人ばかりじゃない。地元や本拠地ならうまくことも、敵地では勝手が違ってうまくいかないことは仕方がない。でもあの場所なら何となくうまくいきそうな気がする、前もうまくいったしな……。そんなふうに考えられる場所が多いほど、スランプにもなりにくいのではないか。

 

会社の机にしがみついていても結果が出せるとは限らない。状況が許せばお気に入りの店や図書館、共有スペースなどなど、好きな場所で次の作戦を練ってみてはいかがだろうか。普段と違う環境だからこそ柔軟な発想ができるかもしれない。理想は結果がバンバン出せて「好きな場所」が増えていくことだが、まずは上林ばりに「嫌いじゃない場所」を一つずつでも作っていけば、少しずつ道は開けていく気がする。

オレがやるという目をする~ソフトバンク千賀が首位攻防戦で今季初完投初完封

先日、「ソフトバンク、史上初の完投勝利なしVの可能性」(毎日新聞)という見出しを見つけた。そう、2019年のソフトバンクブルペン陣を総動員しているため、完投がなかった。それがついに止まった。8月2日に行われた日本ハムとの首位攻防ラウンド初戦で千賀滉大が気迫のピッチング。2安打完封を飾ったのだった。

 

所用でリアルタイムではチェックできなかったのだが、radikoで数時間遅れで聞き始めた時、一瞬、千賀が投げているような実況が耳に入った。終盤まで千賀が投げている展開ならソフトバンクが優位に試合を進めているに違いない、とソフトバンクファンの私はほのかな期待を、いや、相当の期待を抱きながらラジオ中継に聞き入った。

 

試合はソフトバンクが2点リードのまま9回へ。その前の8回、千賀は無失点に抑えたものの四球を二つ献上。9回は別のピッチャーが出てくるかと思ったが、アナウンサーが、千賀が最終回に向けてスタンバっている様子を紹介した。これはなかなか気合が入っているなとほくそ笑んだ。千賀はこの2試合、エースらしからぬ崩れ方をした。その結果、チームは苦境に陥った。この試合に懸ける千賀の意気込みは相当なものだったに違いない。

 

千賀は最終回にヒット1本を許したもののそのまま完封した。ヒーローインタビューで続投策について聞かれた千賀はこう言った。

「(続投について監督、コーチから)話はなかった。僕が『行く』という目をしていた」

これにはシビレた。

「行けるか?  大丈夫か?」なんて聞かれもしない。オレがやるんだ。その気迫が空気感として流れていたのだった。

 

負けた試合でも千賀はエースのプライドを見せるピッチャーだ。打たれはしたものの敢えてあと1イニングを投げきり、何とか反撃ムードの火種は残す。そういうことができる。だがこの試合では投げきることでチームに貢献しようとした。

 

この試合で勝つ意味は大きい。チームは直近の西武戦で負け越し、日本ハムとのゲーム差は1.5。首位攻防戦の展開次第で2位に転落する可能性がある。逆に初戦に勝てばこの3連戦中の首位交代はなくなる。ペナントレースを占う意味でも大きな節目の一つと言える、そんな試合だったのだ。実際、工藤公康監督はこう評価した。

「こういうところで期待に応えて、最高の投球をするのがエースの証明」(時事通信記事より)

野球を裏切らない――負けないエース 斉藤和巳

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まさにエースの証明だ。エースとはただ勝つだけではない。チームがピンチに陥った時でも何とかしてくれる、頼りになる存在だ。千賀にしてみたらオールスター明けの直近2試合で不甲斐ないピッチングをしてしまったことの罪滅ぼし、汚名返上の意味合いがあった。連日奮闘する中継ぎ陣を休める意図もあっただろうが根底には、次こそはやってやるんだという、自分との約束があったように見える。それが「行くという目」になったのだ。

 

サラリーマンだって、「この仕事頼みたいが、やれるか?」と聞かれる場面はある。やれるよね、と託される時もあるし、大丈夫か?というニュアンスの時もある。しかしやれる人はもう目付きで分かる。そういう目をしている。オレがやるんだという意思を持った目だ。逆に自信がない人は目をそらす。最近のライトな風潮なら「できません」と言ってしまう人さえいるかもしれない。目付きで闘志を表した千賀。当然のように完投完封した千賀。まさにエースであることを証明する熱投だった。

誕生日を自分で祝う~ソフトバンク、上林バースデー弾などで乱打戦制す

誕生日は祝ってもらうのが主だろうが、別に自分で祝ってもいいのだな、と発見があった。ソフトバンクの上林誠知が24歳の誕生日である8月1日の西武戦でタイムリー&3ランを放ち計4打点。チームの勝利に貢献した。

 

上林は相変わらず、強いリストを生かしてホームランを打っている。と言っても打率はこの日の試合が始まる前で.193。いかに一時期骨折で離脱していたとしても2割を切るのはいただけない。もっともっと打ってもらわねば困る。

 

今夜の3ランは4点差を付けられていた中での一発だからすごく価値があった。ライオンズ打線と言えば金子や源田がチャンスメイクして、外崎や山川穂高森友哉中村剛也らが収穫するパターン。ものすごく強力な打線だ。ソフトバンクは後半戦から貧打にあえいでおり、ああ、今夜も逆転負けなのかと諦めそうになった。そんな時に上林誠知の3ランが出た。一気に1点差。これならまだチャンスがある……と前向きになれた。

 

この後、デスパイネが同点ホームラン。そして牧原が決勝タイムリー。中継ぎも失点はしたが高橋純平や甲斐野央らが何とか踏ん張った。この日は2位の日本ハムが敗れたためゲーム差が1.5に開いた。首位攻防3連戦が待ち受けているため、非常に大きな1勝になった。西武とも危うく2ゲーム差になるところだったが逆に4ゲーム差に押し戻した。ペナントレース的にもポイントになりうる試合だった。

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打率は上向かないが一発が見込め、一定の守備力がある上林は外すに外せない。そんな消極的な起用ではなく、この日のような勝負強さを発揮することで、上林にはチームに貢献してもらいたい。ペナントレースが激化するこのタイミングで誕生日を迎えたことは、ちょっとしたアクセントになるはずだ。自分で自分のリズムをつくる。この誕生日の活躍をきっかけに、上林には振らされる受け身のスイングではなく、自分の意思で振り抜く力強いバッティングを続けてもらいたい。

指揮官のファイティングポーズ~1000勝の原辰徳監督と甲子園出場の明徳義塾・馬淵史郎監督

「朝になれば、今日どうやって勝つか。夜になれば明日どうやって勝つか。そのことしかない」(サンスポ記事より)

監督通算1000勝を飾った原辰徳監督は異例のお立ち台で興奮を隠せないでいた。しかし、1000勝への原動力は思った以上にシンプルなものだった。

原点―勝ち続ける組織作り

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勝つために必要なことしか考えない、と言っているようにも聞こえる。これは案外難しそうだ。何せ巨人の監督である。黙っていても、耳を塞いでいても雑音は入ってきそうだ。戦力は充実しているだけに、チームがうまく機能していないとしたら使う側に問題がある、と見られてしまいがちだ。そういう一切合切を乗り越えての1000勝。なにがしかの信念がないと達成できまい。

 

監督通算1000勝は13人目。巨人では川上哲治長嶋茂雄に続き3人目だ。特にあのONを擁して勝ち星を積み重ねた川上哲治をも射程にとらえたのは驚きだ。平成の巨人はかくも強かったのかと思ってしまった。確かに原監督はすでにリーグ制覇7度。名監督と言える。

 

何が優れているのかと言えばやはり勝利への執念ではないか。冒頭の言葉からもそれはうかがえる。執念、と言えば先日甲子園行きを決めた明徳義塾高校馬淵史郎監督からも勝ちへの執念を感じた。事実、馬淵監督は「全身全霊で」決勝に挑んだと振り返っていた。試合中、ベンチの馬淵監督がたびたび映ったが身ぶり手振りからも気合が伝わってくる。口も始終動いていたし、相当ハッパをかけていたのだろう。何せ明徳は昨年夏、高知商業に敗れて甲子園を逃している。馬淵監督にとっては臥薪嘗胆の夏、なのだ。

 

「棚からぼた餅と言うが、突然幸運が降りてくると思うやろ? それは違う。餅が落ちた時に、一番棚に近いやつが拾える。棚に近づける努力をせえ。いつ落ちてくるか分からんと、後ろで腕組みしているやつに幸運は来ない。俺はいつ落ちてきてもいいように努力している。そうすれば、拾えるわけよ」(馬淵監督の言葉、日刊スポーツ記事より)

原監督といい馬淵監督といい、プロ野球高校野球の違いはあれど、常に勝利を目指す姿勢は通じるものがある。思いの強い者が勝つ。あらためてそんなことを感じている。

悔しさを忘れない~ソフトバンク川瀬に見せたい名手・今宮健太の涙

ソフトバンクの川瀬晃が7月30日の西武戦でタイムリーエラーを犯した。すでにソフトバンクは1点負けていたし、その後追いつくこともできなかったので、川瀬がエラーしてもしなくても負けは負けだったかもしれない。ただし勝負どころで傷口を広げるタイムリーエラーだったから、やはり責めを負わねばならない。そのことは川瀬自身も分かっているはずだ。

そんな川瀬にぜひ見てほしい映像がある。今宮健太の涙だ。2018年4月18日のオリックス戦。1点ビハインドのソフトバンクは1死満塁のピンチ。ここでショート今宮健太の前に打球が飛んだが今宮はホームへ悪送球した。打球をつかみ損ねて焦ったか。ランナー二人が生還し3点差になってしまった。悔しさがこみ上げた今宮は泣いていた。

それが3年目の今宮健太の姿だ。一生あのプレーは忘れないと言っていた。誰もが諦めそうな当たりでも超人的な反応や強肩でアウトにする今の今宮健太からは想像できない失敗。しかしその裏には悔しさや向上心、そしてたゆまぬ鍛練があった。

今宮健太は脚の常態がまだまだ万全ではないのだろう。1軍に復帰はしたものの、試合終盤に引っ込むケースが見られる。その代役の1人が川瀬なのだが、まだまだ今宮健太に比べると見劣りしてしまう。そもそも実績も経験も違うのだが、プロの選手として試合に出る以上、経験が足りないからできませんとは言えない。それに光るものがあるからこそ1軍に呼ばれ、試合で使われているはずだ。

幸い、川瀬のエラーはダブルプレー狙いで前にギャンブル気味に突っ込んだ上でのもの。惜しくもバウンドに合わせきれなかった。あれを安全に処理しすぎていても、プロのショートとしては評価されないだろう。過去のインタビューを見たが今宮健太も攻めた結果のエラーは割りきっていた。川瀬が攻めた捕球態勢をとったことは評価したい。

対戦相手の西武のショートには名人の源田壮亮がいる。この日もセンターに抜けようかという当たりを難なくさばいていた。今宮といい源田といい、ショートにはハイレベルなレギュラーがいる。川瀬はそこに挑むのだから大変だが、引きずる意味ではなく悔しさを忘れない意味でこのエラーをとらえ、鍛練に励んでもらいたい。

出番がないなら自分でつくる~ソフトバンク栗原が捕手以外のポジション模索

レフト線の観客席に果敢に突っ込み、ファウルフライがキャッチされた。捕ったのは誰かと思ったら栗原陵矢だった。本職はキャッチャーである。

 

栗原は打撃が買われてDHで使われたこともある。キャッチャーで起用されないのは正捕手に甲斐拓也が鎮座しているからだ。栗原は打った上で、守りでも結果を出さないと甲斐の座は奪えない。

 

ここで考え方は大きく二つ。あくまでもキャッチャーとして甲斐拓也に挑戦するか。はたまた別のポジションに活路を見いだすか。プロ野球選手は試合に出て初めて評価されると言っても過言ではない。栗原の意思も大事だが首脳陣の考え方にもよる。

 

阿部慎之助のようにキャッチャー経験者が一塁を守ることがある。これについて解説の岸川勝也が言っていた。一塁は外野からの返球でカットマンにもなるし、そんなに簡単ではない、と。キャッチャーと同じく捕球が大きなウエイトを占めるが根本的に働き方は異なる。

 

そんなことは分かりきっており、栗原の場合は2019年シーズンに波のあるソフトバンク打線のてこ入れになるので首脳陣が使おうとしているのだ。栗原はプロ初ホームランを打ったりタイムリ三塁打を打ったりと、結果が出始めた。ソフトバンクは後半戦は打線が上向かない。栗原の打力を生かすなら今なのだ。

 

そう考えるとコンバートというよりは栗原はキャッチャーだけれども外野もできなくはない、と複数ポジションを考えてもよいのかもしれない。栗原にとって今は試合に出続けることが大事に見えるからだ。

 

甲斐拓也も今季は打撃が好調。交流戦での意表を突くスクイズも印象的だったし、何より甲斐には強肩という武器がある。日本シリーズクライマックスシリーズの経験もあるし、まだまだ栗原は太刀打ちできまい。

 

栗原はキャッチャーにこだわりがあるのかもしれないが、まずは打力を生かすことでチームに貢献すればよいと思う。そのために外野の守備力を上げる必要はあるが、ちょうどグラシアルが不在だから、その間だけでも栗原のライト代行は面白い選択だと思う。

 

出番がないなら、別の実績で別の出番をつくる。本職にこだわりすぎるのもよくないのかもしれない。こだわりはチームに貢献してこそ胸が張れる。成長株の栗原はソフトバンク後半戦のキーマンになるかもしれない。

今やれることをやる~今宮健太が復帰のソフトバンク、先発全員安打で大勝

ソフトバンク打線が爆発した。先発全員安打(16安打)で11点。日刊スポーツは「ソフトバンク打線が梅雨明け、 今宮口火で白星祭りへ」なんて見出しを付けていた。うまい。そうだ、貧打に泣いていたソフトバンク打線は梅雨入りしていたと思えばいいんだ。そうとらえると何だか気持ちが軽くなった。

 

梅雨。妙にジメジメして気持ちが上がらないイメージだ。ちょうどソフトバンクは後半戦が始まってから6連敗があり、打線が湿っていた。前半戦を牽引したグラシアルが離脱して、泣きっ面に蜂状態だった。

 

だが今宮健太が戻ってきた。そしていきなりホームランをかっ飛ばした。すると松田宣浩デスパイネも続いて三者連続ホームランになった。終わってみれば16安打11点。西田にはタイムリー、栗原にはプロ初ホームランと、トピックには事欠かなかった。まさに梅雨明けだ。

 

ソフトバンクはこれで貯金13。だからこそ「あれは梅雨入りだったんだ」と言えるのだが、そうやって割りきるのも一つの手だ。私も最近、一つ割りきろうとしていることがある。作業が立て込んで思うように毎日が過ごせないのだが、それは繁忙期ゆえの不可抗力だから、焦っても仕方ないんじゃないか、と。

 

割りきろうと思ったきっかけは日経新聞のコラム「元気のココロ」を見たこと。見出しは「今できることは一つだけ」だった。私はマルチタスクが大の苦手だ。工夫して物事を並行してやろうとしても、結果的にクオリティーが下がったり、何かを抜かったりしてしまう。良くも悪くも一つのことをやると視野が狭くなる自覚もある。だからマルチタスクができる人がうらやましい。

 

しかしコラムでは料理人を例に出し、いろんなことを並行してやっているが実際には包丁を動かしているだけなのだ、と説いていた。これなら自分も当てはめられる。もちろん千切りのスピードアップは目指さなければいけないのだけれど。

SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる

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今やれることは一つだけ。それで気が楽になった帰り道、radikoで聴いたソフトバンク戦中継で打線が爆発。気分がスカッとして、試合後に見つけた日刊スポーツ記事のタイトルで「ソフトバンク打線が梅雨明け」ときた。そうだ、今何となく調子が出ないのは自分も梅雨を脱せていないだけなんだ、そう思った次第。体がバッキバキにこっているのは湿度の高さやら効きすぎた冷房も関係あるのか。ここらでちょっと長めに湯に浸かるとかして、汗をかいて気持ちを切り替えよう。

顔が浮かぶ存在になる~楽天移籍の和田恋が初のスタメン起用で即ヒット

楽天に移籍した和田恋が7月21日のソフトバンク戦でスタメン起用された。和田は巨人にドラフト2位指名されたが5年間でわずか1安打。巨人の選手層の厚さに阻まれた印象もあるが、そもそもそれをこじ開けてこそプロだ。

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とはいえこのまま今シーズンが終われば和田とて契約してもらえるかビミョーな印象だった。それだけに昨シーズン、ファーム2冠に輝いた和田に楽天が注目してくれたことがうれしかった。トレードでもシーズン途中での場合はチームの弱点補強の意味合いが強い。楽天はピッチャー(古川)を一人出す代わりに、打線に厚みを持たせたかったのだろう。

和田は楽天に移籍後は2軍戦に出場。5試合で21打数9安打、打率4割2分9厘、4本塁打、10打点とすぐに結果が出た。平石洋介監督は和田恋を1軍に呼び、すぐにスタメン起用した。この辺りが期待の現れだし、調子がいいならすぐ使うというのは平石監督が2軍監督経験者だからと分析する人もいた。確かにいくら調子がよくても使ってもらえなければしぼんでしまう可能性がある。人には使い時というものがある。

和田恋はエラーも三振もしたが移籍後初ヒットを放った。プロ5年間で1安打だったのだがチームが変わり1軍最初の試合で打てた。それは和田恋が力を発揮できたということにほかならない。じゃあ巨人での時期が不遇だったかといえばそうではない。巨人にいたことには意味があったし、楽天で活躍することで過去を価値付けてもらいたいと思う。過去をプラス評価するためには今や未来を輝かせるのが手っ取り早い。

 

和田恋は高知高校の出身。クリムゾンレッドではないが、高知高校野球部のユニホームにはえんじが使われている。ちょっと似ている。少なくともオレンジ色よりは。和田恋にとってクリムゾンレッドはラッキーカラーになる可能性があると見た。

和田恋のトレードで実感したのは「顔が浮かぶ」存在になることの大切さ。あれを頼みたい、これをやってほしいと思った時に浮かぶ顔とそうでない顔がある。時としてアイツにやらせてしまえとマイナスの意味で顔が浮かぶ場合もあるが、最悪なのは全くノミネートされない、忘れ去られた存在になることだ。和田恋に食指が動いたのは元々長打力に期待されていたことやファームでの好成績があったからだろう。今回楽天の誰が和田恋に白羽の矢を立てたかは知らないが、もしも和田恋の顔が浮かんでいなかったら一つの才能があっさりプロ野球の世界から消えていたかもしれない。

しかし和田恋は再びチャンスを得た。あとはそれをものにできるかどうか。ちなみに和田恋が楽天で初のスタメン起用された試合には広島から移籍した下水流もいたし、先発は育成契約からはい上がってきた石橋だった。石橋をリリーフしたのは同じく戦力外経験者の久保。ドラマ好きのプロ野球ファンなら泣けてくる布陣だった。私はソフトバンクファンだから彼らをおおっぴらには応援できないが、彼らの再起を陰ながら応援したい。

期待されている中で結果を出す~ソフトバンク長谷川が連敗ストップ逆転弾、周東は俊足発揮

ソフトバンクが連敗を6で止めた。立役者は長谷川勇也。1軍昇格後3試合目で出た待望の今季初安打は、チームの危機を救う価値ある一発となった。

 

長谷川らしいライナーでのホームラン。まだまだ力強い当たりは打てるよと言わんばかりだ。ヒーローインタビューでは、長打を意識して打席に入ったと言っていた。その6回の打席は、回ってこないはずだった。二死からデスパイネが三振したのだ。が、キャッチャーが後逸したのに気付いたデスパイネは一塁へ。1点ビハインドであるだけに、確かに次打者の長谷川に求められるのは長打だった。

 

連敗中のソフトバンクは打線が湿っていた。そんな中でグラシアルが代表活動のため離脱し、交流戦で大活躍の福田は脇腹痛が再発。そして江川や長谷川が1軍に上がってきた。長谷川は前半戦でも一度昇格したが、けがですぐ2軍に戻ってしまった。2度目の昇格に、心中期するものがあったに違いない。

 

かつて首位打者に輝いたこともある長谷川。なぜか1軍に呼ばれない、と工藤公康監督との確執を疑う声さえ聞かれた。だが前半戦は故障者が続出し、仮に二人に何らかの溝があったとしても(ないと思っているが)、そんなことにこだわっている場合ではなかった。もし長谷川がけがしなかったら、もっともっと1軍で出場機会を与えられたことだろう。

 

そして2度目の昇格。次こそはと思わないはずがない。そしてチームもファンも長谷川の力を必要としている状況。そんな中で長谷川はチームを救うホームランを打てた。期待されている中で結果を出せる人ってさすがだな、と思った。ヒーローインタビューを受けていても、長谷川は全く受かれた様子はなかった。むしろこれくらいやれて当然くらいの口ぶり。頼もしい限りだ。

 

長谷川のホームラン後にダメ押しの1点がほしかったソフトバンクは最終回、代走で周東を送り込んだ。何とかスコアリングポジションにランナーを進めたいところだったが、周東は二盗を成功させた。茂木がショートバウンドの送球をうまく処理して際どいタイミングになったが周東の足が一瞬早く二塁に達していた。

 

ピンチランナーとして成功した鈴木尚広もそうだったが、ここで走ってほしいとか、ここで走ってくるとまる分かりの場面で盗塁を決められるのはスペシャリストだと思う。この日の周東はさらにすごかった。続く甲斐拓也の当たりはレフト前へ。かなり浅めでレフトが捕球してバックホームしたため、本塁突入はかなり厳しいタイミングだったがこれまた周東の足が一瞬早くホームベースに達した。周東でなければできない作戦だった。

鈴木尚広の走塁バイブル

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楽天も前半から粘り、流れはむしろ楽天にきていたが、長谷川のバットと周東の足がチームを救ったのは間違いない。この日、2位の日本ハムが敗れたためゲーム差は3に拡大。これが1になるのか、3になるかは本当に大きな違いだった。何より連敗が止められたことが大きい。ソフトバンクは期待の戦力が見事に結果を出してチームを救った。

やった人にしか分からない実感~DeNA山崎康晃が史上最年少150セーブ

DeNA山崎康晃が史上最年少150セーブを記録した。150セーブは15人目。歴代の達成者はそうそうたる顔ぶれだ。

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山崎康晃は5年目での達成だから、単純計算で平均30セーブ。すごい安定感だ。たまに捕まることもあるが、そもそも毎回抑える方が大変。抑えは失点ゼロで締めくくるのが当たり前くらいに思われているから気の毒な気もする。打たれたら大騒ぎされるし、割に合うかと言われたら本人たちはそうでもないのかもしれない。

 

しかし山崎康晃はクローザーに強いこだわりを持っている、と日刊スポーツ記事「自身を救い、勝利届ける山崎康晃のDIY/独占手記」に書かれていた。そうだった。山崎康晃にも悩んだ時期があった。いつも抑えているから、忘れていた。

 

新聞記事で読んだのだが、不調の山崎康晃筒香嘉智に呼ばれ、こう教えられたという。

「大きく見える投手がおれは嫌だ」

空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ

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いわく、不調の山崎は表情やしぐさに不安がにじみ出ていたというのだ。抑えピッチャーはうそでも堂々としていなければならない。かつて巨人在籍中の豊田が登板すると胸に手をやり深呼吸するルーティンをしていて、江川卓にダメ出しされていたのを思い出した。そんなピッチャーはのみこまれてしまう可能性があるんだ、と。

 

そんなことがあり、山崎康晃はマウンドで胸を張るよう心がけている。虚勢を張り続けるのもしんどいものだし、化けの皮や付け焼き刃はいつか剥がれ落ちるものだ。大切なのは実力を付けること。山崎康晃の150セーブは本当に力がないとできない数字だ。

 

実は山崎康晃は先発からスタートし、先発ピッチャーとして定着できなかったことに引け目を感じていたというのは初めて知った。だが今は抑えに強いこだわりを持っているという。それは山崎康晃が抑えを一生懸命やったからこそたどり着い境地に思える。そして結果を出し続けたからこそたどり着いたのだ、とも。任された仕事のしんどさもやりがいも、本当のところはやった人にしか分からない。

やられっぱなしでは終わらない~楽天・美馬、令和初の完全試合逃す

7月19日はソフトバンク楽天美馬学にあわや完全試合を食らうところだった。美馬にしてみたらあと3人だったのにと惜しい気持ちがあるだろうが、実は充実した気分ではなかろうか。というのも美馬はソフトバンク戦で悔しい経験をしているからだ。

 

6月2日のソフトバンク戦でも美馬は5回を終えて完全試合ペースだった。だが6回にホームランを打たれて完封もなくなり、7回にはノーアウト満塁のピンチを作って降板。踏ん張りどころで死球を与えた美馬は自分の不甲斐なさから、ダグアウトのベンチにグラブを叩きつけた。私はソフトバンクファンながら、そこまで入れ込む様子を肯定的に見た。

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同じソフトバンクが相手だから美馬には心中期するものがあったに違いない。8回終わったところでまだ完全試合ペース。ソフトバンクファンの私も、これはひょっとしたらやられてしまうかもと諦めムードだった。しかし9回の先頭バッター、明石健志はフルカウントに。完全試合を期待する楽天ファンからは励ましの声援が湧いたが次の投球は高めに浮いた。これで完全試合は消滅した。

 

続いて代打の栗原が打席へ。代打ということはこの日の美馬の投球は打席では見ていない。この日の美馬は好調だ、という先入観がなかったことが効を奏したのだろう。栗原がバットを振り抜くと、打球はレフト前にポトリと落ちた。これでノーヒットノーランもなくなった。

 

考え方によってはここでピッチャー交代となるが平石監督は美馬の続投を選択。まだ完封の芽もあるし、何とか投げきってもらいたいということだろう。だが美馬は上林にタイムリーを喫し、完封も消えた。2019年の楽天はまだ完投ピッチャーがいなかったため、あとは美馬が最後までマウンドに立つかどうかだったのだが、美馬は何とかその1失点で試合を終わらせた。

 

「やっちゃうんじゃないかと……」

ヒーローインタビューで完全試合への意識を問われた時の美馬の正直さに、スタンドは湧いた。このあたりも美馬の魅力なのだろう。この時は私は美馬が6月のソフトバンク戦で見せたグラブ投げつけのシーンを忘れていたのだが、あとであの美馬の熱さを思い出すと、美馬は相当うれしかったんじゃないかと想像した。そう、やられたらやり返す。それができた時は気持ちがいいものだ。

 

特にプロ野球は同じ対戦相手と試合を重ねていく。相性というものがあり、続けて勝つ場合も続けて負ける場合もあるが、大抵は勝ったり負けたりだ。そしてやられた方はリベンジを期するし、勝った方は次も…と意欲が出る。その繰り返しの中でレベルが上がっていく。だからソフトバンク打線としては次回の美馬との対戦では何がなんでも打ち崩さねばならない。

 

その意味では最後に粘ってノーヒットノーランも完封も阻止できてよかった。最後のバッター牧原のアウト判定もタイミングとしては際どく、選手に促される形で工藤監督がリクエストを要求した。アピールしたのは内川聖一ら。最後の最後まであきらめない姿勢はさすがだった。やられっぱなしでは終わらない。美馬もソフトバンクナインもその大切さを見せてくれた試合だった。

小さな変化に気付けない~ソフトバンク和田毅が2試合連続で緊急降板

7月20日楽天戦に敗れ、ソフトバンクが6連敗となった。工藤公康監督就任以来のワーストタイ。6連敗は日本ハムに11.5ゲーム差をひっくり返された年以来というのだからソフトバンクにとっては縁起が悪すぎる。ベテラン和田毅の力で何とか連敗を5で止めてほしかったのだが、和田自身は楽天打線を無失点に抑えたものの、リリーフの一人、椎野が浅村に犠牲フライを打たれて0-1で終わった。

 

降板後の和田いわく、スパイクの刃の周りには土がこびりついていたという。状況が悪くなっていく、その小さな変化に気付けなかった。それが失敗だと受け止めた和田毅はさすがだったのだが、チームが負けてしまってはどうしようもない。けがの具合が気になるが、一日も早くよい状態に戻してもらいたいと思う。

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和田毅が注意散漫だったなんて、そうは思えない。むしろこの危機的な状況で、絶対に自分が勝たねばならない、連敗を止めなければならない、そのためには先取点を与えてはいけないのだ、という気負いがあったのではないか。だから自分のことを後回しにした結果、スパイクの刃に土がこびりついていたのを見落とした……。優しい人が陥りそうな悪循環だ。

 

だとしても和田毅は責められない。もはや回復力の高い以前の体ではないだろう。無理は禁物だ。責任感の強い和田毅のことだから、チームが危機を脱するまで自分のことを二の次にしかねない。それを避けるためには打線が奮起するしかない。

 

連敗中のソフトバンクは貧打が響いている。頼みのグラシアルは代表活動のため離脱、その穴を埋める筆頭の福田秀平は脇腹痛。1軍には長谷川や江川らが昇格してきたがまだ結果が出ていない。2ゲーム差に迫ってきた日本ハムの勢いとは対照的だ。工藤監督も頭が痛いところだろうが、各自でやれるのはその打席ごとにやれることをやるのみだ。ここまで何とか踏ん張ってきた投手陣に応えるためにも、1試合でも早く打ち勝つ試合を見せてほしい。

自分と戦っている状況では苦しい~ソフトバンク4連敗、チームも加治屋も踏ん張り時

過ぎたことをぶり返してもいけないが、昨夜のソフトバンクの敗戦は残念だった。打たれたこともそうだが、この日本ハム3連戦、何か、弱気が伝染しているように思えるからだ。初回に打ち込まれた大竹耕太郎、4四死球と乱れた甲斐野央、そして救援しながら満塁にして降板した加治屋蓮。勝負の前に自分との戦いに負けてやしないか。

 

7月17日の日本ハム戦で加治屋は、4イニング投げて降板したスアレスの後を引き継いだ。しかし二塁打やセンター前に抜けそうな当たり(これは何とか牧原が食い止めたがアウトにはできず)で1死一、三塁に。問題はそこからだった。中島にタイムリーを浴びた後、加治屋はストライクが入らなくなった。

 

3ボールになった時、解説の加藤伸一は言った。勝負にいけている段階じゃない、自分と戦っている状況だ、と。これではいかにも苦しい。これは早めの継投をした方がいいと加藤伸一は提案したが、加治屋はそのままストレートの四球を与えて満塁の状況で降板してしまった。結局、リリーフした松田遼馬が踏ん張りきれず2失点。点差は4点に広がった。

 

調子が出ない時。それは得てして相手との勝負にはならず、自分で自分を追い込んでしまいがちだ。それでは勝負にならない。駆け引きにもならない。逆に自信があったり、結果が出ている時は自分のペースで攻められる。その点では、4-0とリードを広げた直後の5回にノーアウト一、二塁とランナーを背負いながらも無失点で切り抜けた日本ハム先発の有原航平はさすがだった。さすがリーグ最速10勝目を挙げるだけのことはある。

 

勝負に敗れるとしても、せめて相手とは勝負したいものだ。やるだけのことをやってうまくいかないならまだ納得できるが、力が発揮できなければ消化不良になるだけで成長にはつながらない。それではいかにももったいない。そういえば「四球から生まれるものはない」と工藤公康監督は言っていたなと検索してみたら、その試合(5月12日のロッテ戦)で加治屋は2四球を出して押し出しの1点を与えていた。

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同じ四球でも攻めて厳しいコースを突いての四球ならば意味はあるが、昨夜の加治屋は明らかに精神的な余裕のなさがピッチングに表れていた。モイネロが離脱することを考えても、加治屋にはしっかりしてもらわないと困る。特に今季はかなりリリーフ陣が若返っているだけに、優勝の味を知る加治屋には自分が引っ張るくらいの気概がほしい。4連敗で、グラシアルが離脱、そしてモイネロも……チームにとっても加治屋にとっても、今が踏ん張り時である。


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