黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

新井貴浩もいいけど後藤武敏の引退試合に引かれる理由~あの男は登板するのか

DeNA後藤武敏が2018年シーズンでの引退を表明した。彼もまた松坂世代である。

松坂世代どころか、横浜高校時代の同級生。松坂大輔小池正晃小山良男と共に1998年の夏の甲子園を制した。明徳義塾に逆転勝ちし、PL学園と死闘を繰り広げたあの夏のことだ。

横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今 (朝日文庫)

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あれから20年。後藤武敏はまだプロ野球選手でいる。戦ったPL学園の平石に至っては楽天の監督代行になっている。そんな年齢だ(平石がそういう器という説もあるが)。今年は村田修一も引退したし、松坂世代はだいぶ現役選手が減ってきた。


DeNAファンでも西武ファンでもない。強いていえば高校野球好き。だからこそ思う。「後藤武敏の最後の対戦相手は松坂大輔であれ」と。
続ドキュメント 横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たち

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それは無理な話ではない。後藤武敏引退試合は9月22日の中日戦。中日には松坂大輔が、いる。

引退試合の最終打席。その対戦相手は切腹の時の介錯人である(後藤武敏は何も責任を問われるようなことをしていないが)。思い残すこともないよう、スパッと選手生命を断つ。それが友人なら諦めもつこう。

現に後藤自身も「最後はマツに」と思っているという。そして松坂大輔自身も登板したい意思を示している(スポーツ報知記事より)。記事にあるように、情が深そうな森繁和監督のことだから可能性は十分ある。

参謀 (講談社文庫)

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そう、引退試合はエンターテイメントなのだ。


後藤はチームの一員として小池正晃引退試合に参加した経験がある。その試合で奇跡は起きた。そのシーズン、1本もホームランを打っていなかった小池正晃はまさかのホームラン2発。後藤は小池が打席に立った時点で泣いていた。もう、もらい泣きしちゃう。詳しくは下の過去記事を読んでいただきたいが、他人のために泣ける人は最高だ。

tf-zan96baian-m-stones14.hatenablog.com


友の引退試合で泣く男は自分の引退試合でどうなってしまうのだろう。だいたい予想はつくが、演出を想像してみた。


まず、試合冒頭に後藤が打席に立つパターン。これだと試合にさほど影響はない。世の中には、セレモニーを真剣勝負の試合中にせんでよろしいというケチ臭い人もいるが、1回の裏ならまだ許されると思う。後藤は第1打席で終了。松坂大輔は先発して行けるとこまで投げれば問題ない。投手と打者の違いはあるが、山本昌引退登板がこのパターンだった。

山本昌という生き方

山本昌という生き方

だが、盛り上がるのは試合後半の登場。8回くらいの山場で代打後藤武敏登場。ならばと満を持して松坂大輔がリリーフ登板。1打席限りの真剣勝負である。後藤がヒットなりホームランを打てばめでたしめでたしなのだが、松坂大輔のことだから三振を狙いにいくに決まっている。後藤はまっすぐ1本に絞りホームランを狙ってみてほしい。小池正晃に続いて奇跡は起きる、かもしれない。

そんな夢を見られるのも、実は松坂大輔が退路を絶って中日入りしたからこそでもある。松坂はいつまでも松坂世代のシンボルであり、太陽であった。横浜高校-中日の小山良男明徳義塾-ロッテの寺本四郎。PL-横浜の田中一徳。PL-大阪近鉄などの大西宏明。PL-立教-日テレの上重聡(あっ、この人は違う?)。すでに球界を去った松坂世代にとっても、松坂大輔はきっと心のよりどころに違いない。きっと後藤武敏にとっても………。

松坂世代 (河出文庫)

松坂世代 (河出文庫)

幸か不幸か中日もDeNAも優勝争いはしていない。ゆえに誰はばかることなくセレモニーをやったらいいと思う。ベイスターズ戦だし、Abema TVあたりで生中継してくれないかなあと切望する。そう、22日は横浜スタジアム終戦なんだ。横浜高校で育った二人が最後の最後にどんなドラマを見せてくれるか。期待せずにはいられない。

野球×新聞×インターネットって面白い! 熊本日日新聞がnoteで「火の国球児」紹介

今回は熊本日日新聞(熊日)の「野球×新聞×インターネット」という楽しい取り組みを紹介する。新聞とインターネットは対立関係にあるかのごとき描かれ方もされるが、決してそんなことはない。むしろ組み合わせ方次第では物事を深く、立体的に伝えられる。それを再認識させられた。


熊本は「打撃の神様川上哲治(熊本工)を筆頭にプロ野球選手を輩出してきた。現在、プロ野球を楽しんでいる人ならば秋山幸二(八代)と伊東勤(熊本工)は十分ストライクゾーンだろう。この夏、熊日金足農業フィーバーの陰で独自の戦いを進めていた。過去の紙面と今をリンクさせたアーカイブ系の取り組みだ。
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秋山と伊東が藤崎台で激突! 1980年、夏の高校野球県大会決勝「八代ー熊本工」 二転三転の大接戦に観客は熱狂 「夏の甲子園100回記念 紙面を彩った火の国球児たち」。これがその第1弾。夏の甲子園100回目にちなみ、思い出の選手や歴代ベストナインを選ぶなどさまざまな企画が新聞ごとにあったが、熊日の取り組みのポイントは過去の紙面を上手に生かしていることだ。
 

いわゆるオールドメディアが新興メディアに勝る要素の一つは過去記事並びに写真、そして紙面だ。地方紙ならば100年単位の歴史を誇る。例えば九州の球団・ソフトバンクホークスは源流の南海ホークスまでさかのぼれば80年の歴史があるが、まるまる収まってしまう。

卒業

卒業

要はこの蓄積した記事、写真、紙面をいかに活用するかなのだが、熊日夏の甲子園100回という節目に、熊本大会決勝で死闘を繰り広げた秋山幸二伊東勤にフォーカス。過去のコンテンツをネット上で再構成し、名勝負を今の世代に届けた。

詳しくは実物をご覧いただきたいが、とにかく、過去の紙面のパンチが効いている。見出しの力強さは紙面ならでは。過去記事をテキストスタイルでネットにアップするだけなら、この懐かしさ、タイムスリップ感は出ない。まさに紙面の成せるワザである。 
 
当時のモノクロ写真も味がある。伊東も秋山も面影はある(当たり前だが)。秋山は西武の主力打者のイメージが強いが、高校時代はピッチャーだったと恥ずかしながら知った。そして、よく考えてみたら熊本県大会で死闘を繰り広げた二人が西武の黄金時代を築いたのだ。人生はどう展開するか分からない。

こんなアーカイブス記事、テレビ局と連携して動画も付いていたらなお立体的で深みが出るに違いない。ラジオ局にも参加してもらって実況中継を聞けるようにしても面白い。とまあ楽しみ方はいろいろ。今年は西武がペナントレースを引っ張っているし、球団史を彩った伊東、秋山の高校時代をあらためて振り返ってはいかがだろう。ちなみにこの記事、1本200円。筆者はケータイのキャリア決済で支払った。気軽に買えるのも、いま風だ。
 
 
何より、過去のコンテンツを工夫して輝かせようという制作者の意思が素晴らしい。きちんと秋山に再度インタビューも行っており、過去と今をうまくつないでいる。読者が増えないと嘆いていてばかりいても始まらない。同じ新聞人として刺激を受けた。
 

もちろん、業界人ならずとも野球ファンなら十分楽しめるネタ。「川上哲治編」「野田浩司編」もあるので興味のある方はぜひ購読されたい。
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台風に警戒しながらのホームラン記念日~JAMES LAST BAND - VIBRATIONS - 2018

9月3日は何の日だったか? 答えはホームラン記念日。1977年に王貞治が756号を放ち、ハンク・アーロンの世界記録を超えたことにちなむ。

それをトイレに貼ってあるカレンダーの豆知識で予習済だった筆者は9月3日の通勤中に聴いたカーラジオの曲に爆笑した。

「Vibration」。これで分かれば野球通。そう、プロ野球ニュースの「今日のホームラン」BGMである。気になるあなたは今すぐYouTubeで検索を。

Spring Fling

Spring Fling

(いまは手に入らないそうなので、どうしてもという方はこちらで)
プロ野球ニュース 今日のホームラン VIBRATIONS  ORIGINAL COVER

プロ野球ニュース 今日のホームラン VIBRATIONS  ORIGINAL COVER

恐らく、いや、確信犯だこの選曲は。ちなみに聴いていたラジオ番組はNHK-AMの「マイあさラジオ」。選曲者の術中にまんまとはまった。

というわけで、きょうはこれまでに執筆したホームランにちなむ記事を、vibrationに乗せてお届け(各自脳内でこの曲を流してください)。それでは、台風に警戒しながら、お楽しみください。
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ライバルとの距離感をはかる~アジア大会100メートル銅メダルの山縣亮太がつかんだもの

結果を出すことは大事。しかし、結果が出なかった中でも手応えがあればしめたものだ。アジア大会陸上100メートルで銅メダルを獲得した山縣亮太の走りを見ながらそう思った。

山縣亮太100メートル9秒台への挑戦 (学研スポーツブックス)

山縣亮太100メートル9秒台への挑戦 (学研スポーツブックス)

 

 銅メダルでも立派なのだが山縣は金メダルを狙っていた。それは高望みでも何でもなく、実際決勝では優勝した中国の蘇炳添に中盤まで食らいついていた。蘇炳添は9秒92の大会新。山縣は2位と同タイムの10秒00ながら、着順が3位となった。

 

レース後のインタビューが山縣の素直な心境を物語っていた。「9秒91の選手は先にいるかと思ったが、案外近くにいた」

 

 その選手とは9秒91が自己ベストの蘇炳添。山縣亮太は10秒00が自己ベストだからお互い力を出しきったら勝てない。そして、100メートル競技における、しかも競技者におけるこの100分の9秒差は埋めがたいものなのだろう。だが、今回は敗れたとはいえ、はっきりと背中が見えたに違いない。

 

レベルアップの過程で目標が定まることの意味は大きい。このくらい力を発揮したら到達できるんだと感触をつかめたら、そこを目指すのみだ。言うは易し、行うは難しだが、もはや、やみくもに頑張れという話ではなくなっている。

 

目標にしていたものが実は手が届きそうな感覚になれるのは、紛れもなく成長している証拠。かなわない、追い付けるわけがないと思っていた存在が、あれ、そんなに遠くないなという距離にいる。その時は思いきって手を伸ばしてみたいものだ。ライバルの襟元に指先がかするかもしれない。そうしたらまた自信が生まれる。金メダルは逃したが、山縣亮太はひょっとしたらメダルに負けないくらい価値のある自信を手に入れたのかもしれない。

 

陸上競技マガジン 2018年 07 月号 [雑誌]

陸上競技マガジン 2018年 07 月号 [雑誌]

 

 

ライバルなり目標との距離感で自分の今のレベルや成長具合を確かめる。山縣亮太の言葉から、あらためてその大切さを認識した。山縣亮太の健闘に、桐生祥秀ケンブリッジ飛鳥も多田修平も刺激を受けたに違いない。2020年東京オリンピック100メートル。日本勢の活躍にますます期待したい。

東京パラリンピックでメダル、もいいけれど~障害者スポーツ振興は何のため?

障害者雇用の水増し、聞いてあきれる。意図的なものではないと言うが結局「何のために」が理解されていない。障害者の雇用、もっと言えば働く権利を守ろうという趣旨ではないのか。さらに言えば、一人一人が能力を生かして働ける社会をつくるための施策ではなかったのか?

しかも省や県など旗振り役である行政が水増し(結果的にというケースも含めて)している。結局、数合わせでしかないんじゃないの?と言いたくもなる。

もちろん、障害がある人に何でもおまかせできない面はある。車いすに座りながら高い棚の物を取るのは無理だし、毎日必ずやらねばならない作業のチームだと、不規則にしんどくなる障害の人の欠勤は吸収しづらい。その人が戦力なんだから当たり前だ。

だから、その人のできる範囲で、が大前提。その上で各事業所に一人の戦力として雇用されるのが理想だ。現実を分かってないねと言われるかもしれないが、理想は追っていかないと。

筆者は記者時代から車いすバスケットボールウィルチェアーラグビーの選手と親交があるが、正直なところ、最初は遠慮があった。例えばより重度の障害の人たちがやるツインバスケットボールの取材では、体験してみなよと言われて車いすからゴールを狙った時、わざと入らないように加減した。本当に失礼な話なのだが、その時、相当の遠慮があったのは確かだ。もっとも、学生時代からバスケは苦手だから手加減の必要もなかったのだが。

パラリンピックの楽しみ方: ルールから知られざる歴史まで

パラリンピックの楽しみ方: ルールから知られざる歴史まで

じゃあ今はどうなのかと言うと、長くお付き合いできている選手とは人間対人間という関係が出来上がっている。だからこちらの愚痴を聞いてもらったり、相談に乗ってもらうこともある。彼らの態度や振る舞いが障害を感じさせないのかもしれないが、こちらは障害を感じていない。

きっかけがあったのかと言うと、取り立ててあるわけじゃない。ありきたりだが一緒に過ごす機会を重ねたり、お互いをさらけ出したりしただけだ。自然体でやってきたからこそ、何か今回の障害者雇用に関する問題は頭に来る。数合わせしてりゃいいのかよ、と(珍しく乱暴な言葉遣いをしてしまいますが)。

2020年に東京でオリンピックがあり、パラリンピックもある。それに向けてパラスポーツへの助成があって、世に出る選手がいる。いい流れだし、邪魔する意図はないのだが、パラでメダルを取る(取れるようサポートする)だけで終わってほしくない。それって、今回の障害者の雇用水増しみたいに帳尻合わせにならないかと危惧している。メダルを取るのが目的じゃない。メダルは素晴らしい成果なのだがその先にある、一人一人が輝ける社会を作るプロセスの一つがパラスポーツ選手の活躍だと思っている。筆者が彼らを応援する理由はその辺りのことと、選手のキャラクターが好きなことの両方である。
壁を越える:車いすのラガーマン パラリンピックへの挑戦

壁を越える:車いすのラガーマン パラリンピックへの挑戦

先日NHKで、1964年の東京パラリンピック開催に尽力した中村裕氏を描いたドラマ「太陽を愛したひと」がやっていた。「失ったものを数えるな。残っているものを最大限に生かせ」。中村裕氏がイギリスで出合った、後の指針となる言葉だ。
太陽の仲間たちよ (KCデラックス 週刊少年マガジン)

太陽の仲間たちよ (KCデラックス 週刊少年マガジン)

「失ったものを数えるな。残っているものを最大限に生かせ」。これって、みんなに当てはまる言葉だよなとつくづく思う。さまざまな理由で不遇の時代を生きる人にも当てはまる。単純に年齢を重ねて、若い頃のようにはいかないなと実感中の人にも。若い頃のようにはいかなくとも知識や経験や人脈はあるわけで。あとはそれをどう生かすかで差がついていく。

「失ったものを数えるな。残っているものを最大限に生かせ」

あらためて、胸に響く。皆さんも、やれることをやれるだけ、やってみませんか?

甲子園Heroes表紙が大阪桐蔭ではないことへの違和感

「甲子園 Heroes」(朝日新聞出版)が8月25日、復刊された。5年ぶりという。表紙は吉田輝星。秋田の金足農業を決勝まで導いた立役者である。が、ここは優勝チームである大阪桐蔭ナインが収まるべきではなかろうか。

金足農業のひたむきな野球が人々のハートをわしづかみにしたのは分かる。3回戦で強豪横浜を倒した逆転スリーラン。近江を土俵際でうっちゃったサヨナラツーランスクイズ。そして地方大会からマウンドを守ってきた吉田輝星が打ち込まれ決勝で敗れた悲劇。公立の、しかも農業高校の躍進に注目するなと言う方が無理だ。このブログだって金足農業のことを書いている時はめちゃくちゃ楽しい。しかし、高校野球ファンたちがわあわあ騒ぐのと、主催者である朝日新聞がルーツの朝日新聞出版がフォーカスするのとは訳が違う。
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何より出版物は、形として残る物。記念すべき100回大会の表紙が、高野連会長をして「高校野球のお手本」と言わしめた全員野球の金足農業というのは、勝利至上主義ではないという意味ではいいのかもしれない。しかし、単純に思う。優勝した大阪桐蔭ナインはどう思うかな、と。単に巡り合わせの問題かもしれない。決勝で打ち負かした相手が日大三だったり、愛媛は済美だったら、こんなにはなっていない。そう、大阪桐蔭は運が悪かったのだ。ちなみに表紙に優勝校以外が採用された例はないのか、J-CASTニュースが調べてくれている。このHeroesシリーズでは史上初、前身のアサヒグラフでは1981年の工藤公康(準決勝敗退の名古屋電気=現在の愛工大名電)、1982年の荒木大輔(準々決勝敗退の早稲田実業)がいたという。
荒木大輔のいた1980年の甲子園

荒木大輔のいた1980年の甲子園

旬の人間を取り上げるのはメディアの基本の「き」。そして編集者によって価値判断に差があるのも分かる。しかし、敗者に光を当てるならば勝者にも敬意を払うのが礼儀ではなかろうか。

雑誌の表紙の見出しは上に「金足農 秋田勢103年ぶり決勝進出」。雄叫びを上げる吉田輝星のカッコいい写真があり、彼のグローブの下に「大阪桐蔭 史上初2度目の春夏連覇」となっている。やっぱりこの表紙、偉業とちぐはぐな感が否めない。

応援するなら弱い方。その意味で今大会、大阪桐蔭を応援することはなかった。このブログで大阪桐蔭のことを書いたことはあるが、それは去年の「一塁事件」とその後についてだ。
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強者だから、弱者だから、ではなくそこに何を見出だすかが腕の見せ所。速報では太刀打ちできない分、視点や感性、分析力や表現力を磨いていこうと思う。

無謀だが真面目な連投防止策を考えてみた~金足農業・吉田輝星をリスペクトしつつ

終わった。100回目の甲子園が。秋田県民の有給消化日が。そして東北の人々が見た、深紅の大優勝旗白河の関を越える夢が。
 
秋田が誇る「雑草軍団」金足農業が、史上初の2度目の春夏連覇を狙う大阪桐蔭に挑み、壮絶に散った。逆転スリーランに、意表を突くツーランスクイズ。大黒柱のエース吉田輝星だけじゃない、まさに全員野球で全国の高校野球ファンを楽しませてくれた。みんな、ありがとう、と言ってくれるに違いない。

しかし、多くの人は思っているはずだ。最高のコンディションの吉田輝星を、最強の大阪桐蔭打線にぶつけてみたかったな、と。
 
もちろん、体調管理やリスク管理も含めてのトーナメント戦である。もはや継投は甲子園を勝ち抜く上での常識かもしれない。 
実際、1994年の佐賀商業の峯謙介以来、6試合を投げきった優勝投手は出ていない。それでも準決勝までの吉田輝星の力投を見ると、ついに壁が破られるのかと期待したのだが…… 
結局、吉田輝星は5回を投げ被安打12の11失点。甲子園初戦から4試合連続で2けた奪三振だったが、決勝は四つにとどまった。
 
大阪桐蔭打線が見事に吉田輝星をとらえたのは紛れもない事実だが、吉田に疲労の2文字をダブらせない人はいないだろう。そこが「どうにかならないのか」と思う理由だ。 
選手を守る方法として提案されるのが球数制限。よくプロで目安にされるのが100球だがそれだと大概完投できない。つまりピッチャーが複数必要になる。そこがまず問題。才能ある選手が集まりやすい強豪はいいが、公立校は逸材が入って来るのを待つばかりだ。
 
2番手投手がいなければエースが投げ続けるほかない。今でも公立高校が勝ち進むのは厳しいのに、球数制限をしたらさらに道のりは険しい。ちなみに吉田輝星は最も少なかった準決勝の日大三戦ですら134球。130球なら今と変わらないから、せめてMAX120球と制限した場合、吉田は1試合も完投できなかったことになる。金足農業は粘り強く戦ってきたわけだが、背景に吉田の好投あってこそ。やはりエース頼みの学校は球数制限が導入されると不利が予想される。
BRASS BEST J-POP甲子園

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次に、発想を変えて、試合自体を短くする手。これは解説者の里崎智也が日刊スポーツ記事で言っていてなるほどなと思った(ちなみに球数制限の下りも参考にさせてもらっている)のだが、やはり野球は9回で争ってほしいよなと思う。過去の記録との比較も何かとやりにくくなりそうなので、試合そのものをあまりいじってほしくない。 
そこで提案なのだが、すぐできそうなのが休養日の追加。欲を言えば決勝前に2日。最低でも1日挟んでもらいたい。球児は若いから1日でもだいぶ回復すると思うが、決勝まで残れるのはたった2チームなのだから、じっくり体調を整えてもらいたいと思う。高校野球ファンはひたすらネット検索やSNSで時間をつぶしたり想像力をふくらましたりできるから2日くらいなら我慢できる(はず)。 
もうひとつは補強選手制度の導入。都市対抗野球で適用されているのだが、高校野球にアレンジして言えば、同じ都道府県の大会で敗れた学校の選手を借りる。都市対抗だと3人までOKらしいが、高校野球は教育的であるべしなどと必要以上に言う人もいるので遠慮して2人まででいかがだろうか。エースの負担を軽くするため、投手を2人でもいい。バランスを取って投手と打者1人ずつでもいい。2人くらいなら母体の学校のカラーは変わらないのではないか。 
例えば今大会派手な打ち合いを演じた高知商業は県大会で明徳義塾を撃破したわけだが、そこからエース市川と四番谷合をレンタルする。投手は北代から市川に継投できるし、打線はここぞの時に谷合を代打に送ることもできる(事情が許せばスタメンでもOK)。実際、北代は高知大会から全試合投げきったわけだが、市川と併用したら負担は減っていた。また、敗れた済美戦はあと一本が出ていたら結果は違っていた。結果が出たかは分からないが相手の中矢監督からしたらとっておきの代打に谷合が出てきたらすごく嫌がったと思う(明徳の後輩でもあるし)。 
補強選手にもメリットはある。何せ甲子園に出られるのだ。県大会で負けた悔しさは何とか消化できるだろう。さらにはプロ入りを目論む選手なら最大のアピールチャンスになる。ライバル校の戦力になることさえ我慢できれば損にはならない。 
とまあ、選手の負担軽減が少しずつしか進まないことに業を煮やしての、真面目な提案なのだが「明徳と高知商業が一緒にやるなんてありえん!」と一蹴されそうな気配が……同じことは各県で起きること必至。八戸学院光星青森山田早稲田実業日大三……。ライバルゆえに無理な提案ではあるが、このくらい大胆なことをしない限り、公立高校が優勝するのは難しいように思うのだがいかがだろうか(公立にこだわるなら公立同士で選手を融通する手もある)。あの剛腕・吉田輝星をして、最後の最後に「もう投げられない」と言わせた事実を、大会関係者やわれわれ高校野球ファンは重く受け止めねばならない。

甲子園で農業高校が優勝したことはある?~金足農業34年ぶりベスト4に秋田沸騰

秋田の金足農業高校が第100回夏の甲子園で旋風を巻き起こしている。ドラフト1位候補のエース吉田輝星が軸なのは確かだが、3回戦で劇的な逆転ホームランの高橋、準々決勝でツーランスクイズを決めた斎藤&2塁走者の菊地彪吾など、日替わりヒーローが出てきて見ている人を楽しませてくれている。

金足農業夏の甲子園ベスト4はあのPL学園と好勝負を演じた1984年以来、34年ぶりの快挙。そのPL学園で一時代を築いた桑田真澄が、金足農業日大三の準決勝前にレジェンド始球式を行うのも不思議な縁だ。34年前は桑田真澄のホームランで金足農業は敗れたが、今回はレジェンドからパワーをもらってほしい。
完本 桑田真澄 (文春文庫)

完本 桑田真澄 (文春文庫)

当時のPL学園は今で言えば大阪桐蔭。抜群のセンスや能力の選手が集うタレント集団だ。対する金足農業は雑草軍団を自認。これは今も変わらないらしい。農業高校だけに雑草というのも誉め言葉には見えない?が、雑草軍団が決勝でタレント集団の大阪桐蔭と相まみえるともなれば、判官贔屓高校野球ファンはこぞって金足農業を応援するに違いない。そのためにはまず金足農業は準決勝で名門の日大三に勝たねばならないのだが。そして大阪桐蔭を先に書いてしまったが大阪桐蔭とて実力校の済美にまず勝たねばならない。大阪桐蔭には大阪桐蔭の思いがある。みんな大阪桐蔭で甲子園を目指してきた。同じ私立の済美日大三の選手にも当てはまるだろう。こうした強豪と、金足農業のような公立校がぶつかり合うのも高校野球、甲子園の醍醐味だ。まさに100回大会にふさわしい。そこでふと疑問が。過去99回で「農業高校」が優勝したことはあったのか? スポーツ紙のサイトで歴代優勝校を眺めてみたら……答えは、農、いや、NO。中京商業や広島商業松山商業など「商業」はいっぱいあるが農業高校はゼロ。「工業」ならば三池工業があまりにも有名。果たして金足農業は農業高校初の甲子園制覇ができるだろうか?ちなみに戦前1931年に台湾の嘉義農林(かぎのうりん)が準優勝を果たしている(優勝は中京商業)。台湾というのが時代背景を感じさせるが、嘉義農林の活躍については映画化(さらには漫画化、小説化)もされているのでそちらで勉強しようと思う。興味のある方はぜひ。
KANO ―カノ―: 1931 海の向こうの甲子園

KANO ―カノ―: 1931 海の向こうの甲子園

KANO 1931海の向こうの甲子園

KANO 1931海の向こうの甲子園

奇しくも嘉義農林関係者はこの第100回大会開会式にユニフォーム姿で参加していた。胸には「KANO」の文字。金足農業のユニフォーム「KANANO」とはデザインこそ違うものの、通じるものはある。嘉義農林がつかめなかった栄冠に果たして金足農業は手が届くだろうか。秋田県民ならずとも目が離せない。

8月20日追記 金足農業は準決勝で日大三を破り決勝に進出しました。おめでとうございます!

甲子園でガッツポーズは悪なのか~創志学園・西投手に球審が「指導」

岡山が生んだ「燃える男」星野仙一ならどう評価するだろうか。創志学園(岡山)の西純矢投手に対し、必要以上のガッツポーズをしないよう球審から指導が行われた。舞台は夏の甲子園。気持ちが高ぶるのも無理はないのだが…

岡山県高校野球本2018

岡山県高校野球本2018

 

高野連事務局長によれば大会本部からの注意ではないという(8月15日スポニチ記事より)。審判が見るに見かねて、といったところだろう。映像で見てみたが確かになかなかのもの。体を反らせながらの「チョレイ!」でおなじみの卓球・張本智和をほうふつさせる。

そもそも野球は礼儀にうるさいスポーツ。高校野球ならなおさらだ。試合前は整列して一礼。グラウンドの入退時も帽子を取って一礼。勝ったチームは負けたチームより先に引き揚げるが、その際も破ったチームの最前列にいる監督に一人一人一礼してから出ていく。必要以上に礼儀を求めるのはどうかと思うが、これらからは勝利史上主義は感じられない。あるのは野球ができることへの感謝なり、相手校への敬意といったところだろう。

創志学園の西純矢が相手をリスペクトしていない、とは言わないが、割合としては自分を鼓舞する要素が非常に多いように見える。スポニチ記事によれば長沢監督いわく、ガッツポーズは西の自己表現であり、弱いからこそ取る態度という。

同じ高校野球で活躍した田中将大は現役屈指のガッツポーズ実践者だ。日本シリーズでは派手に吠え、当時巨人のロペスと険悪なムードに。沢村賞選考委員からは少年の模範であれと、マウンド上の態度に注文がついたこともある。

田中将大の場合はエンジンがかかってきたなというのが見ていて分かる。勝負所でギアを上げる。そこで仕留めて雄叫びを上げる。それでも相手に対してやっているようには見えない。

そう、ガッツポーズにもやりようがあるのだ。クールに見える大谷翔平だってここぞの場面では声が出ていた。菊池雄星みたいにうつむきながらパチーン!とグラブをはたいて自己完結する手もある。

自分がやりたいからやる、というのはいかにも未熟。自分さえよければいいのかとも思ってしまう。自分のペースでしか話せない。自分のペースでしか動かない。話を聞かない。そんな方々は社会に一定いて、迷惑この上ない。そういう人にはなりたくないものだ。

創志学園には申し訳ないが、2年生である西純矢の精神的成長を期待する意味でも、この下関国際に喫した逆転負けには大きな意味があったと思う。伸びのあるストレートは一級品。クールに試合運びができるようになれば鬼に金棒だ。

一つ残念だったのは球審からの指導を西は「強い口調」と受け止め、リズムが狂ったと感じていることだ。そもそも原因を作ったのは西だから自業自得にも思うし、敗因をそこに置いてほしくもないのだが。熱くなりがちな選手には特に、的確に指導するためにもイニング間に監督も交えて一緒に「しっかりやろう」と諭すことはできなかっただろうか。今回は非常にレアケースだろうが効果的な指導を求めたい。

また、ガッツポーズ自体は悪くないので必要以上にナーバスにならないでほしい。確かに西純矢が言うように「出てしまう」ものなのだろう。学校によっては一律禁止の所もあるようだがそれも何だか味気ない。相手をリスペクトしつつガッツポーズすることはできるし、そういう人の方が素敵と思う。お互いに力を出しきり、高め合って、これからも熱い試合を見せてほしい。

監督はなぜ投手交代しないのか~高校野球で酷使論、再び

酷暑も相まって、高校野球の投手の起用方法が注目されている。炎天下、エース一人に延々投げさせていいのか。技術、体力共に発展途上の若者を守るのは指導者の責務ではないのか。これらの疑問はもっともだ。

完全保存版 夏の甲子園100回 故郷のヒーロー

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大阪府知事橋下徹氏も「球数制限は直ちに導入すべき」と主張している(8月14日サンケイスポーツ記事より)。橋下徹氏はさらに「練習日数・練習時間制限を導入して、決められた練習時間でいかに結果を出すかを切磋琢磨させるべき」とも述べた。いかにも合理的な発想だが確かに一理ある。高校生からこうした時間の使い方ができたら社会人になってから苦労しない。
ルポ・橋下徹 (朝日新書)

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効率よく結果を出す、という意味では150球以上も投げてやっと勝つのは対極にあると言える。しかし投げている方も投げ続けさせる方も好んでやっているわけではあるまい。技術的に未熟であることに加え、球児は全力プレーをするから試合がどうしてももつれるのだ。よって球数は増える。

1イニング3アウト。9イニングで27アウト。各打者を初球で打ち取れば理論上27球で完投できる。しかしそんなことはまずあり得ず、だいたいエースでも120球くらい要する。この第100回大会でも注目の1人、金足農業の吉田輝星が初戦の鹿児島実業戦で157球完投(14奪三振)、続く大垣日大戦では154球完投(13奪三振)。打たせて取るより三振が取れるタイプのようだから、どうしても球数はこのくらいいくのだろう。

ここで思うかもしれない。ピッチャー代えたらいいじゃないの、と。確かに二人で分ければ単純に負担は半分。連投してもダメージは減らせる。じゃあなぜ監督は代えないのか。

理由は二つ思い浮かぶ。まず、「代わりはいない」。超高校級、そこまでいかなくともエースクラスは何人もいない。実力が同じくらいであれば監督だって併用は思い付く。調子がいい方から起用して、継投を模索すればよい。柱を何本も育てるのが指導者の役割かもしれないが、やはり逸材はそうそういるものではない。甲子園で活躍するレベルならなおさらだ。結局、最も勝てそうな投手を使い続けることになる。

二つ目の理由は「野球は流れのスポーツ」だから。投手交代はリスクを伴う。例えば前半抑えられていても、2番手が捕まることがある。夏の甲子園史上初のサヨナラ逆転満塁ホームランという奇跡的な結末でかすみがちだがタイブレークにもつれ込んだ星稜対済美では、投手交代が影響を及ぼしていた。星稜の好投手・奥川恭伸がふくらはぎをつって降板。済美は一時6点ビハインドだったが追い付き、死闘を制した。星稜の救援陣もよく投げたが、果たして奥川が投げ続けていたらどうだっただろうか。済美はエース山口直哉が13回、184球を投げきった。愛媛大会から5試合完投。まさに大黒柱だ。試合展開からして中矢監督は代えるに代えられなかったことだろう。延長に入ってからも気迫の投球だったし、代えるのも勇気がいる。奇しくも済美と次に当たるのは、これまた高知大会から投げ続けている北代真二郎がエースの高知商業。北代は初戦の山梨学院戦で9回150球完投。2回戦の慶応戦は121球を投じてまたも完投。高知大会から6試合ずっとマウンドに立ち続けている。特に山梨学院戦では12失点。これは9回では最多失点完投らしい。北代がマウンドを降りる時、それは恐らく高知商業の夏が終わることを意味する。共に四国勢ということ以上に、両エースが地方大会からマウンドを守り続けていることに注目したい。勝ち上がり方からして乱打戦は十分あり得る。それは見栄えもするだろうがエースの負担を考えると、なるべく少ない球数での好ゲームを期待したい。ちなみに、1人で6試合投げきっての夏優勝は、1994年の峯謙介(佐賀商業)以来1人もいない。

猛攻呼んだ高知商業初回の堅守~またも2けた得点で慶応を撃破

高知商業対慶応。最初に書いておくがこの記事は高知商業びいきで進行する。試合展開の予想から書こうと思ったら高知商業は初回いきなりヒットからのスーパー1年生、西村貫輔がタイムリ三塁打。1回戦の山梨学院戦に続き活躍の予感だ。相変わらず笑顔がまぶしい。2点目が取れたらよかったが、後続は断たれた。

さあ高知商業はエース北代真二郎が先発。恐らく北代が降板する時は高知商業がかなり劣勢だろう。初回いきなりヒットを許すと次は死球で慶応チャンス。さらにヒットで無死満塁。打者は4番。三塁西村を強打が襲い打球はレフトへ。ここはレフト藤高が好返球でホーム寸前タッチアウト! タイムリーで2点目を失うも、ライト前ヒットではライト前田がストライクの返球でまたもや本塁タッチアウト! 北代が打たれまくっているのは気になるがバックはしっかりもり立てた。2点取られて逆転されたがもっと取られてもおかしくなかった。追い付きたい高知商業。2回は先頭が四球。送りバントを試みる間にバッテリーミスがありランナー二塁へ。ここで北代が送りバント。続く浜田が三振するも結果的に振り逃げに。浜田は盗塁に成功し1死二、三塁。次がピッチャーゴロになるも本塁へは悪送球に。三塁ランナーが帰り同点! そしてまたもやスーパー1年生、西村貫輔がタイムリ二塁打! これで西村は甲子園初打席から7打席連続出塁。思えば1回戦も初回に打球を弾いたがその後西村は大活躍。これは吉兆か?
甲子園 2018 [雑誌] (週刊朝日増刊)

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セカンドゴロでようやく2回の攻撃終了かと思われたら、慶応二塁手お手玉。ここで藤田が外野を真っ二つのタイムリ三塁打! この回一挙7点を奪い8-2とした。何か高知商業に見えない力がはたらいているようだ。

2回の裏は慶応にヒットを許すも後続をゲッツーに仕留め得点許さず。流れは徐々に高知商業か。

高知商業は4回、1死満塁のチャンス。ここで藤田がタイムリ二塁打! 慶応はたまらず先発・生井から渡部に継投した。なおも1死二、三塁。ここで北代が犠牲フライ。さらに浜田がタイムリーを放ち12-2とした。今どき高校野球にセーフティーリードなんてないだろうが、このまま勝たないかと期待は高まる。慶応は5回裏、下山の2点本塁打で12-4。高知商業としてはとにかくビッグイニングを作らせなければいい。さあ試合は後半に。

慶応は2番手の渡部がスライダーを駆使して高知商業を封じ始めた。が、6回に高知商業がランナーを二塁に進める。続く打者がレフト前に運ぶがここは慶応が前進守備からうまく中継し本塁タッチアウト。慶応もまだまだあきらめない。

試合は終盤。高知商業はいい当たりを放つも慶応が好捕。こうしたことが続くと流れが慶応に行きかねない。高知商業は反撃ムードを断たねば。

7回は1死から慶応がランナーを出す。慶応側のスタンドは盛り上がる。ここで失点したらまだまだ差はあるとはいえ気を付けねば。と思っていたらピッチャー強襲の打球を北代がグラブに当て、二塁に送ってダブルプレーに。高知商業は好調な打線に目が行きがちだが、ここまでノーエラー。思えば初回大量失点を防いだのはバックの堅い守りだった。

さあいよいよ9回。慶応は先頭奥村が二塁打。代打田辺も続き1点を返した。12-5。さらにライト前ヒットでチャンス拡大。慶応は宮尾がライトに大飛球を放つも前田が背走しながらナイスキャッチ! 犠牲フライにはなり12-6。追い上げムードは高まったが、何とか振り切った。ツーアウトから連続で捕手・乗松がキャッチャーフライを落としたのはご愛敬か。
夏の甲子園 名勝負ベスト100 (文春MOOK)

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結局、高知商業は2試合連続の2けた安打、2けた得点。打線は水ものとは言うが、行けるとこまで行ってほしい。次はベスト8をかけて同じ四国の済美と16日に対戦。済美は延長13回、タイブレークの末、逆転サヨナラ満塁ホームランで星稜を下した。果たして壮絶な打ち合いになるのか。高知商業の強力打線にまたまた期待したい。

二松学舎、ペース離さず広陵破る~光った堅守と好救援

高校野球の観戦流儀で、テレビをつけた時に、負けている方を応援する。きょうは朝から広陵二松学舎を見ているが、西日本豪雨もあったので心情的には広陵を応援しながら見た。

日本で最も熱い夏 半世紀の時を超え、二松学舎悲願の甲子園へ

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共に高校野球ファンには馴染みの高校であり、落ち着いた試合運び。二松学舎が初回に2点先制し、広陵が1点ずつ返して6回終わって2-2の同点。どちらも投手が崩れず守りもいい。野球の神様がどちらにつこうか、考えあぐねているようだ。こういう試合は見ていて楽しい。7回裏、送りバント広陵三塁手の野選で二松学舎は無死一、二塁のチャンス。さらに送りバントが捕手前に転がるも捕手は手につかず、1死二、三塁。続く打者が初球をライト前に運び、二松学舎が2点勝ち越した。一つのプレーから一気に試合が動く。接戦はやっている方は大変だが、見ている方は楽しい。
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2点差でとどめておきたかったが、広陵は5点目を取られてしまった。広陵は8回、1点でも取っておきたい。と思ったら先頭打者が出塁。しかし次打者がダブルプレー二松学舎は守備も堅い。広陵は8回、1点も奪えなかった。

二松学舎は8回裏、ランナーを二塁まで進めた。流れを広陵に渡さない。流れといえば、思い出した。二松学舎も追い詰められたシーンはあった。4回、1点を返されなお満塁。ここで変わった岸川が好救援。さらなる失点は防いだ。

広陵も意地を見せ、9回一死から死球、さらに意表を突くバントヒットで一、二塁のチャンスをつくった。が、最後はまたもやダブルプレーで試合終了。結果的に広陵は試合のポイントごとにダブルプレーで反撃を絶たれた。
ともに泣きともに笑う 広陵高校野球部の真髄

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東東京大会はつぶさに見られなかったが、二松学舎は終盤の粘りが持ち味らしい。それがどこから来るのかと問われた監督は、落ち着いて試合ができるようにとずっと言い続けてきた、と答えた。序盤をしのげばという心持ちになれるのは大きいと思う。一時追い付かれはしたが、トータルで見たら二松学舎のペースだったということだろう。年々打力が向上する印象があるが、5点以内で収まり、ほんの一つ二つのプレーの結果で勝敗が分かれる。そんな玄人好みの試合もたくさん見たいものだ。二松学舎、そして広陵の皆さん、素晴らしい試合をありがとうございました。

14対12の接戦~甲子園で高知商業が山梨学院に打ち勝つ

14対12というスコアを見て、聞いて、どんな試合展開を思い浮かべるだろう。断っておくが高校野球のスコアである。

ピッチャーが四死球連発とか。守りがエラーばかりとか。いえいえ‼️実は2桁得点を取り合っても「接戦」だったのだ、この日の山梨学院対高知商業の試合は。

筆者は高知商業を応援していたのだが、業務のため「ガン見」は無理。ただし小さめの音声で職場のテレビはついていたので、かろうじて試合展開は追えた。

が、ビミョーに棚類が視界を遮り、リアルタイムに得点シーンは見られなかった。実況が叫んだり、見ている人が「おっ!」と反応する度に立ち上がらねばならない。さながらミーアキャットの警戒ポーズである。

しかし2時間にわたりミーアキャットになるのは無理がある。しかも14対12。何回立ち上がったことか。もちろん業務があるから立ち上がる回数も徐々に減少。で、夜帰宅してから22時までかかってネットの「バーチャル高校野球」で試合を見直した。便利な時代である。

どんだけ乱打戦やねん!と思っていたが、野球の神様は山梨学院についたり高知商業についたり。一時高知商業が7対1と突き放して安全圏に入ったかと思えば山梨学院が怒涛の攻撃で5回に一挙8得点。満塁ホームラン込みの波状攻撃だった。

勝敗のポイントは山ほどあるが、面白かったのは6回、山梨学院が継投した場面。スコアは山梨学院が10対9と1点リードするも高知商業が1死一、三塁と攻め立てた。ここで一塁を守っていた相澤が三番手投手としてマウンドへ。二番手の鈴木はわずか4球しか投げず。ここは左対左のワンポイントか。この相澤が1球投げた後、事件が起きた。

高知商業の一塁走者が牽制に誘い出されたのだ。タイミング的には二塁に転送されタッチアウト…と思いきや、一塁からの送球がわずかに遅れセーフ。これが運命の別れ道だった(まあ、この後まだまだ打撃戦が展開されるのだが)。

走者が二、三塁となりダブルプレーはなくなった。そしてやや前進守備になった内野を、4番・藤高の打球が抜けていった。二人の走者が帰り逆転。もしも牽制で走者が刺されていたらランナーは三塁のみ。タイムリーが出たとしても10-10と同点止まりだった。たった一つのプレーが勝敗に大きく影響する。野球の怖さでもあり醍醐味でもある。

輝け甲子園の星 2018年 07 月号 [雑誌]

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この後、山梨学院は「山梨学院のデスパイネ」こと野村健太の特大ホームランで追い付き、さらに鈴木が名誉挽回の勝ち越しタイムリーを放つ。さすがに高知県大会で明徳義塾を打ち破った高知商業とてもう無理かとなりそうなところだが、なんと3点取って14-12にしてしまった。

この回、2点タイムリーを放ったのは1年生にして高知商業のホットコーナーを守る西村貫輔。西村はこの日の5打席すべて出塁。黒柴スポーツ新聞が選ぶ、この試合のMVPである。

何せ名門高知商業のホットコーナを1年生が守っているのである。初回、先制打を与える形となってしまったが三塁線を襲う強烈な打球に反応しグラブには当てていた。また、強烈な三塁ゴロも基本に忠実に、身を呈して前に落としてアウトにした(外から強い力が伝わり具合が悪くなってしまう心臓震盪の恐れがあるため、この捕球に是非はあろうが)。守りが良さそうだ。

なお、この日は三塁打あり、試合を決めるタイムリ二塁打あり、得点のきっかけとなる四球ありと、西村貫輔は5打席すべてで出塁した。エース北代真二郎も、打たれながらも150球の力投を見せたが打撃戦という試合内容を加味してやはり西村貫輔をこのゲームのMVPとしたいがいかがだろうか。

近年は守り勝つより打ち勝つ野球がトレンドのようにも見える。その意味では、高知県大会決勝で高知商業明徳義塾に打ち勝ったのは非常にオーソドックスな試合運びだったのかもしれない。とにかく出てくる高知商業のバッターは振りが鋭い。打倒明徳義塾イコール打倒市川悠太を目標に160キロの打撃マシンと対峙した効果がもろに現れている。さらに速い球だけでなく、緩い球も我慢して体の近くまで引き付け鋭く打ち返している点も見逃せない。明徳義塾は堅守と巧みな試合運びが身上だが高知商業は北代の完投とここ一番の集中打が勝利の方程式。壮絶な打ち合いを制したのを目の当たりにすると、次戦以降も期待してしまう。次は激戦地の北神奈川を制した慶応が相手(12日=日曜日の第4試合)。バントを絡める上田修身監督の采配込みで楽しむことにしよう。

※掲載当初、「第3試合」と紹介しておりました。正しくは「第4試合」です。失礼致しました。観戦予定の方はご注意願います!

チャレンジの先に見える景色~中日ドラゴンズ新人の鈴木博志に期待

中日ドラゴンズの新人、鈴木博志に密かに注目している。ドラゴンズファンでもあるまいに。

たまたまテレビ中継で鈴木博志の投球を見たのがきっかけだが、勢いのある、荒々しいストレートに心を奪われた。リーグが違うのだが、何か懐かしいパ・リーグの香りを嗅いだような気分になった。中日は素晴らしい新人を獲得したたなあと思ったことだった。2017年のドラフト1位である。社会人のヤマハを経ての入団。即戦力とされていたのだろうが、8月2日までで45試合に登板。中日は95試合を消化しているので半分ほどになる。これはもう、なくてはならない戦力ということだ。

中日には鉄腕・岩瀬仁紀がまだいるが、鈴木博志はどうなるだろうか。ダイナミックな投げっぷりから、太く、短く、かなと想像している。近年のプロ野球は、再びかつての酷使時代に戻っている気がする。とにかくいいピッチャーは惜しげもなく、短い登板間隔で使っている。鈴木博志も2試合に1回のペースに近い。投手の肩は消耗品だから、鈴木博志はシーズンオフ、かなり年俸を望んでいい。

細く長くがいいのか、短くても行けるとこまで行っておくか。以前は細く長くがいいに決まっていると思っていた。しかし最近は期間は度外視している。結果さえ残せば、短期でも長期でも、どちらでもいいじゃないか、と。

鈴木博志に感じてほしいのは、今まさにチームに必要とされているんだなということ。筆者は精神論とか根性論は嫌いなのだが、鈴木博志には、新人にもかかわらず、ずっとチームに必要とされていることを意気に感じてほしい。

鈴木博志は、2日までで4勝4敗。救援投手として4敗というのはあまりよろしくない。きのう8月3日の巨人戦でも9回、阿部慎之助に同点タイムリーを喫し、岩瀬仁紀の救援を仰ぐ形になってしまった。

中日は首位争いをしているわけではないから、鈴木博志を育てながら起用できていると見た。上位争いをしているチームなら救援失敗はすぐ責任論に発展する。特に鈴木博志は新人だから、先輩の勝ち星を消してしまった場合は立つ瀬がない。新人投手はそういう事とも戦わねばならない。

だが、2試合に1回のペースで登板するからには、失敗してもいちいち落ち込んではいられない。とはいえ何も感じていないように振る舞えば「責任を感じていないのか」とつっこまれる可能性もある。難しい。

鈴木博志は今、打たれるのが仕事のような気がする。そうやって駆け引きなり投球術を身に付けていくのだ。いくらブルペンで豪速球を投げ込めようとも、そこに相手打者はいない。やはり実戦に勝る経験はない。いかにヒリヒリする場に立てるか。そう、場数を踏むことが成長につながる。

ヒリヒリする場面は、ミスをした場合のダメージも軽くはないし、とにかくその最中はしんどい。しかし乗り越えた時の成長は約束されている。いきなり責任あるポジションを任されて、鈴木博志も大変だろうけれど、2018年シーズンが終わる頃、マウンドから見える景色はずいぶん違ったものになっているのではないだろうか。

それはチャレンジした者にしか見えない。ドラゴンズファンでもないくせに、思う。いつか鈴木博志が優勝を決めるマウンドで仁王立ちしている姿を見てみたい。

自分のストライクゾーンをつくれ!~岡本和真は村田修一を追い越せるか

巨人の岡本和真に対し、ラジオで解説していた山崎武司がこう言っていた。まだまだ未完成。もっとよくなる、と。3割40発もいけますよ、と。

そのために必要なのは、「自分のストライクゾーン」なのだという。

ストライクゾーンはだいたいこの辺だと決まっている。しかし、もしバットが届いてヒットにできるのであれば、そこはストライクゾーンというか、振っていっていいらしい。

そう、ヒットにできるゾーンは人それぞれ。ある人には苦手なコースでも、別の人には大好きなコースだったりする。まだまだ発展途上の岡本和真のストライクゾーンは定まっていないのだろう。

経験が浅いと、自分ではボール球だと見送った球が「ストライク」とコールされる場合もある。この場合、ストライク!とジャッジするのは価値観が合わない上司だったりするのだが。それはもう、かつてパ・リーグにいた村田康一審判ばりにストライクだアウトだと価値観を押し付けてくる。もう、従うしかない。ではなくて、きちんとここからここまでなら勝負できるんだぞと自分で把握できていたら、あたふたすることもない。線引きさえできていたら、仮に他人に、思っていたのと違う判定をされても「ああ、考え方が違うのだな」と割り切ればいい。

では、自分のストライクゾーンって、どうやったらつくれるんだろう? やっぱり、最初はとりあえず振っていくしかなさそうだ。ここは当たる。ここは当たらない。ここはヒットにできる。ここはヒットにできない。経験を地道に積み重ねていくしかあるまい。

そういう意味では試行錯誤のシーズンなのに、岡本和真はスタメン定着初年度にして3割という数字を残そうとしている。ゆえに山崎武司が「まだまだよくなる」というのもうなずける。

野村監督に教わったこと―僕が38歳で二冠王になれた秘密―

野村監督に教わったこと―僕が38歳で二冠王になれた秘密―

岡本和真が自分のストライクゾーンを確立できた時は、どんな数字を残すだろうか。まだまだ背中は遠いが、同じように高卒ドラフト1位の筒香嘉智のように「大木」に育つのが楽しみだ。そういう意味では2018年のNPB復帰が消滅し、否応なしに引退を突き付けられた村田修一は、巨人が「間伐」したことになるのだろうか。

巨人は伝統的に外様の強打者に冷たい。古くは張本勲が3000安打前にロッテへ。巨人への初恋を実らせた清原和博にも戦力外通告を突き付け、村田修一もその座を追われた。着けていた背番号25を背負っているのは実質的に村田修一を追いやった岡本和真である。もちろんこればっかりは巡り合わせだから、岡本和真が悪いわけではないのだが。岡本ならば、村田修一に匹敵する選手になれる可能性を十分感じさせてくれている。

岡本和真が自分なりのストライクゾーンを確立し、大打者になった時、ひっそりと浮かばれるのが村田修一なのかもしれない。

その頃にはまた、次のジャイアンツを担う若手が背番号25を奪いに来たりして…プロ野球の生存競争は恐ろしい。


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